第41話 女難
五日ぶりに城から出たおれは頭上から降り注ぐ太陽の光に目を細めた。
「日差しが眩しいな」
ほぼ不眠不休で書類を片づけたおれは、ようやくカリーナを探しに街へと行けるようになった。
ちなみにサミルはおれの書類仕事の後始末のために、まだ城の中を走り回っている。サミルもおれと同じぐらい寝ていないので、途中で倒れないといいのだが、今のおれはサミルよりカリーナだ。一刻も早く捕まえなくては。
と、睡眠不足の頭で考えながら、おれは街の大通りを歩いていた。
大通りは謀反軍が占拠する前と同じ賑わいを取り戻しており、様々な商品と人がいる。その中にカリーナの姿、もしくは気配がないか探す。
木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中。
そう考えたのだが、簡単には見つからない。
「やっぱり別の方法で探すか。それに……やっぱり眠い」
おれは作戦を立て直すためと、睡眠をとるため城へ足を向けた、その時。
「カリーナ!?」
見覚えのある茶髪が目の前をよぎって人混みの中へと消えた。
「待て!」
おれは人をかきわけて走り出した。現れては消える茶髪を頼りに、ひたすら大通りを走り、気が付いた時には首都の中心にある噴水広場にいた。
「どこだ?」
周囲を見回すが先ほどまで追いかけていた茶髪はない。
「見失ったか」
どっと疲労が出たおれは噴水の前にある石で出来たベンチに腰かけた。休日のためか広場には、いろいろな人がおり、露天商から大道芸人や吟遊詩人などもいる。
おれは特に何も考えずに、そんな風景を眺めていたのだが、気が付くと若い女性の姿が多くなっていた。
「……なにか、あるのか?まあ、おれには関係ないか」
そこそこ休んだおれは城に帰るために立ち上がった。すると、そこに聞き覚えのある少女の甲高い声が響いた。
「キャー!第三皇子のレンツォ様よぉぉぉ!」
それは明らかに今おれが探している幼馴染の声だった。声は近くでしたのだが姿が見えない。
「カリーナ!?どこだ!?」
おれが首をまわして周囲を探していると、広場にいた女性が一斉に走ってきた。
「レンツォ様!」
「お会いしとうございました!」
「皇子様!」
華やかな声とともに叫び声も上がる。
「ちょっと、私が先に見つけたのよ!」
「押さないで!」
「痛ーい!私の足を踏んだのは誰!?」
「や、引っ張らないでよ!」
あっという間に前後左右を囲まれたおれは女性に溺れかけていた。
「ちょっ……まっ……なんだんだ!?おい、どこ触っている!?やめろ!服が破れる!うわっ!」
おれは四方八方から伸びてくる手の隙間からカリーナの顔を見た。こちらを向いてベーっと舌を出している。
「カリーナ!おまえの仕業っ……やめっ……息が出来な……」
本格的に女性の中で溺れていくおれを尻目にカリーナはさっさと姿を消した。
そして、おれは騒ぎを聞きつけた治安兵に助けられるまで溺れ続けた。海や川で溺れたことがない、おれが陸で溺れることになるとは思わなかった。
「ひどい目にあった」
身に付けていた衣服のほとんどを破られ、剥ぎ取られ、皮膚には女性たちの鋭い爪によるかき傷が全身に出来ていた。
どうにか城に帰ると、城門で待っていたサミルがボロボロのおれに準備していたマントを背中にかけた。
「大丈夫ですか?」
「貞操は守れた」
「ですから、女性には気を付けるように何度も言っているではないですか。我が君が女性を惹きつける力は私以上なのですから。しかも性質の悪い女性ばかり」
「そうか?」
「旅の道中も何度、女性のせいで危険な目にあったことか。まさか、忘れたのですか?」
「あれぐらい普通だろ?」
おれの言葉にサミルが諦めたようにため息を吐いた。
「失礼ながら、我が君がこの国でどのように過ごされていたのか、少し調べさせて頂きました。確かにカリーナ嬢がしてきたことに比べれば、旅の道中のことは些細なことに思えてきて恐ろしいです」
「どこが恐ろしいんだ?」
「そう考えられるようになるところが、です。とにかく今日はお休み下さい。報告は明日しますので」
「そうだな。もう今日は寝る」
おれは自室に入ると寝台に倒れ込んで、そのまま眠り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます