第37話 難題
おれは外の空気が吸いたくなって城の中庭へと出た。
「なんで、こうなるんだ?」
中庭は綺麗に手入れされた緑の木々と、色とりどりの花々が咲いている。アルガ・ロンガ国特有の温暖な気候による暖かな日差しが中庭に広がっていた。
おれは中庭にある長椅子に座って空を見上げた。
「面倒だな」
確かにグランディ卿の言う通りのところもある。あれだけの強い魔力を持っていれば、恐怖の対象となる。
おれの場合は第三皇子ということで国を裏切らないという確約があるので、国民も安心しているところがある。
だがカリーナの場合は違う。今回のように王家の血筋であるバンディニ卿でさえも国を裏切ったのだから、公爵家の娘でも裏切る可能性があると思われているのだろう。
そうなると、カリーナが国を裏切らないという証明を目で見える形で表さないといけない。
「いい案が浮かばねぇ」
カリーナについてどうするか考えていると、老人と青年が談笑している声が聞こえてきた。
二人とも聞き覚えのある声だったので、おれがその方向へ顔を向けると、そこにはサミルとクルーツィオ卿がいた。
サミルがおれに気づいて声をかけてくる。
「我が君、会議中ではなかったのですか?」
「休憩だ。それより、どうしてクルーツィオ卿と一緒にいるんだ?知り合いではないだろ?」
おれの質問にクルーツィオ卿が答える。
「いや、持病の癪(しゃく)が出て困っているところにサミル殿が来られましての。魔法で助けて頂いたのです。いやあ、サミル殿の魔法術は素晴らしい。今までいろんな魔導師が魔法で治療をしましたが、こんなに効いたのは初めてですぞ」
「これは一時的なものですから。治療には長期の魔法治療が必要ですよ」
穏やかな笑顔で説明するサミルに、いつもは厳い顔をしているクルーツィオ卿の表情も穏やかになっている。
「まだ若いのに大したものですわ。レンツォ様は良い家臣を見つけましたな」
おれは少し困ったように言った。
「だが、サミルは他国の人間ゆえ家臣には出来ないんだ。誰か養子にしてくれれば良いのだが……クルーツィオ卿、誰か心当たりはおりませんか?」
それを聞いてクルーツィオ卿が何かを悟ったように意地悪く口元だけで笑う。
「……そういうことですか。なかなかやりますの」
そう言っておれとサミルを見る。
「わかりました。サミル殿をわしの養子に致しましょう」
あまりにもすんなりと話が進んだことに思わず驚く。
「いいのか?」
「はい。この老いぼれにも、まだ使い道があるようですからの。使えるうちに使って下され。細かい手続きは任せましたぞ」
そう言うとクルーツィオ卿は笑顔で歩き去っていった。
おれは思わぬ展開にサミルを見る。
「どうやって、あの頑固じいさんを懐柔したんだ?」
「腰痛で動けなくなっているところを魔法でお助けして、世間話をしただけですよ。年齢のせいか話し相手が欲しくなってきたのに、あの険しい表情のせいで相手がおらず寂しかったようです」
「つまり魅了の魔力なしてクルーツィオ卿を落としたのか。どこまで偶然だ?」
サミルがにっこりと微笑む。
「ご想像におまかせします。そういえば我が君の師匠を先ほどお見かけしましたよ」
サミルが話題を意図的に変えたということは、これ以上訊ねても答えは返ってこないということになる。
おれはサミルがあえて変えた話題にのった。
「師匠が?どこにいた?」
「図書館の方へ歩いて行かれていました」
「そうか。最近会っていないからな。顔を出してくるか。教えてくれて、ありがとう」
「いえ」
サミルに見送られながら、おれは中庭の先にある図書館へと向かった。
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