第三皇子なのだが周囲からの扱われ方がひどい

第1話 安穏とした日々の崩壊(前編)

 おれの名前はレンツォ・ラ・アルガ・ロンガ。大陸の半島にある小さな国、アルガ・ロンガ国の第三皇子である。


 一応。


 一応というのは現国王と血が繋がっていないと言われているからだ。だが母親はおれが生まれて少しして亡くなった王妃である。おれが王妃の腹から生まれたとこを見た者は大勢いるので、それは間違いない。

 ただ父親が別にいるというだけだ。だが現国王はその噂を知っていながら、おれを第三皇子として扱っている。


 と、言っても今は王城には住んでいない。生まれつき魔力が強かったためコントロールが出来るよう師匠のところに三歳の時に預けられたのだ。


 それでも定期的に城に帰ることはある。帝王学や武術を学ぶためだ。その時に耳に入ってくる話では、おれは不憫な生活をしていると囁かれているらしい。

 だが、おれとしては城での権力争いや、王族間の争いなど面倒事に巻き込まれたくないので、師匠の下での生活の方が有難い。


 そんな感じで育ってきたので王族だが平然と街を歩き、普通に買い物をして手伝い程度の家事もする。

 執事や侍女たちはいい顔をしないが師匠が平民の勉強だと言ってさせているので注意も出来ない。だから、おれは結構、平和で自由な生活をしていた。


 あの日を迎えるまでは……





 その日は師匠の友人が子どもを生んだということで、出産祝いを持って街外れにある、こぢんまりとした屋敷を訪問した。

 小さな屋敷だが庭は手入れが行き届いており、色鮮やかな花々が咲き誇っている。そこから庭師のセンスの良さを感じとれる。


 おれはその庭を見ながら師匠に訊ねた。


「師匠、生まれたのは本当に女の子なんですよね?これで男の子だったら、出産祝いの服が無駄になりますよ」


 おれの質問に師匠は呼び鈴を鳴らそうと伸ばそうとした手を止めた。


 そもそも師匠はこの世界の人間ではないという。


 アルガ・ロンガ国より西にあるシャブラ国という国に異世界から召喚されたそうだ。目的は定期的に復活する魔王を封印するために魔力が強い師匠を召喚したのだという。そんなものは自分たちでどうにかしろと思うが、師匠は召喚されたので仕方なく魔王を封印したそうだ。

 そして、いざ自分の世界に還ろうとしたら、その術がないと言われたという。


 ちなみに、その時怒った師匠はシャブラ国の王城を修復不可一歩手前まで破壊して国から出て行ったそうだ。

 全壊にしなかったのは師匠の優しさではなく嫌がらせだろう。全壊なら立て直すだけだが、修復不可一歩手前の方が下手に修理できる分、時間と金と労力がかかる上に精神的外傷が残せるからだ。


 と、話がそれたが、それから師匠は還る術を探してこの世界を旅したそうだが、その術は見つからず、故郷に似ているアルガ・ロンガ国に定住することにしたそうだ。

 そして現在は異世界の知識を活かして王の補佐をしながら還る術の研究をしている。


 そんな輝かしい?普通ではない経歴を持つ師匠なのだが、外見はとてもそのように見えない。


 師匠の外見は金髪と琥珀色の瞳で肌の色も白く、全体的に色素が薄いような人だ。その上、基本はのんびりとした穏やかな性格なので優男に見られることが多い。


 師匠が苦笑いをして、おっとりと頭をかきながら言った。


「そう言われると自信がないなぁ」


 師匠は魔力がずば抜けて強く色々な魔術を知っているくせに、どこか抜けている。

 そのため、おれは現在七歳なのだが、大人であるはずの師匠がしたことの後始末に追われることが何度もあった。


「師匠……」


 おれのため息まじりの声に師匠が微笑む。


「まあ、生まれたばかりの時は性別なんて分かりにくいし、外にもあまり出さないだろうから、間違っていても大丈夫だよ」


 師匠の楽観的な意見におれは頭を抱えた。


「間違っていたらリアの魔法が吹き荒れますよ」


 リアとはこの度子どもを生んだ師匠に友人である。


 リアも師匠と同じくシャブラ国で異世界から召喚されたそうだ。

 師匠がいた世界とは、また別の世界からだったそうだが、師匠にくっついて旅をしてアルガ・ロンガ国まで来たらしい。

 この人は師匠ほど自分の世界に還る気はないらしく、この世界での生活を満喫しているように見える。


 おれから見たら、だが。


 師匠が良い笑顔でおれに向かって親指を立てて言った。


「頑張って」


「おれに言わないで下さい!師匠の方がはるかに魔力が強いんですから、師匠が頑張って下さいよ!」


「えー」


 おれの抗議に師匠が眉をハの字にする。そもそも弟子であるおれが、なんで師匠を守らないといけないのか。おれの何倍もの魔力を持っているくせに。


 門の前でおれと師匠が言い合いをしていたら顔見知りの執事が現れて屋敷の中に通された。


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