#11 元魔王はストーカーされる。
サターナスは自称勇者アーマンドを退けたのだが、その結果アーマンドが弟子入りを懇願してきた。
サターナスは当然のごとく断るのだがアーマンドは諦めることなく、さらにアーマンドのパーティーメンバーまでこの村に居すわる事態となってしまった。
この村には宿泊施設など存在していないので今は村長の邸宅に泊まっているのだが、朝起きると既に玄関前に待機している状態で日がな一日まとわり憑かれてしまうしまつだ。
そして数日が経過した今日もアーマードは玄関の前に居座っている。
■■■
「はぁー、ほんとあいつどうすれば帰ってくれるんだ……」
毎日、毎日付きまとわれては最終的に完膚なきまでに叩きのめしておるのだが、それでも一向に帰る気配が無い。
ボゴボコにしているのにむしろ、相手をして貰えたことで喜んでおって気持ち悪いからキケとサラが怖がって近づいてこなくなったではないか。
しかし家に籠っておっては食べるものすらないので、外には出なくては行けないのだが。
「サターナス様! 本日はどのようなご予定で!!」
「……」
「なるほど! そんなことは自分で察しろと言うことですね!?」
「違う! いい加減もう諦めて帰ってくれないかな」
「何をおっしゃいますか! サターナス様は人類の救世主とも言えるほどの力の持ち主。そのサターナス様が魔王討伐に向かえない深い事情があるならば、このアーマンドがその力の一端を教わり、代わりに魔王を討伐に向かわせて頂きたいのです!!」
「それは何回も聞いたよ」
会うたびに暑苦しく勇者アピールしてくるから困ったものだ。
幾ら人類の救世主と言われようともワシは元魔王だぞ? そのワシが魔王というか仕事を押し付けたルシフェルムを倒しに行けるはずがなかろうに。
しかしそうは答えられぬから、こうしていつまでも付きまとわれるのかも知れんが。
「いいか、そんなにワシにまとわりついてきてもワシがお主に教えられることは何もない。ワシの力の根源はこの目の通り黒い魔力だ。お主のような赤い目をした者に教えられることなど何もないのだ」
「はい、でもサターナス様の動きを真似ることは出来ます! そこから得られることは幾らでもあると思うのです!!」
「はぁー、本当に諦めの悪いやつだな」
どう説得しようとも帰ってくれそうになく、むしろ一緒に住まわせてと言わん勢いだ。
サターナスが困っているとそこにキケとサラがやってくる。
もちろんアーマンドからは距離を取りながら弧を描く様にだが。
「ほらそうやって何時までもワシに付きまとわってるから、お主は勇者のくせに子供にまで嫌われておるのだぞ。まったく恥ずかしいと思わんのか?」
「大器を成す為には犠牲は必要だ! 私が子供に嫌われることで魔王を討ち滅ぼせるなら構わない!!」
こやつは本当に何を言っても聞かぬな。
「魔王様、あいつ魔王様を倒そうとしてるの?」
「いやワシではなくでな……」
まてよ、ここでキケとサラがアーマンドを追い返すように仕向ければ流石のアーマンドでも言うことを聞くのではないか?
「そうだキケとサラよ、あいつはワシを倒そうとしておるのだ。毎日、毎日付きまとわられて困ったものだ」
「やっぱり! それなら僕が追い返してあげる」
おお、キケは勇ましいな。
幾ら聞き分けの無いアーマンドでも子供の言うことは聞いてくれるだろう。
「おじちゃん、魔王様を倒そうとしてるの?」
「ああそうだ! 勇者は魔王を倒すことが使命なのだ!!」
「魔王様はいい人だよ、私たちとあそんでくれるし、こまってる人をたすけてあげるもん。おじちゃんなんてめいわくなことしかしていないのになんで勇者なの?」
「いや魔王がそんなことするはずが……って君たちと遊んでって……え?」
キケとサラはワシの前に立ちふさがり手を広げ再び訴える。
「「魔王様は私たちがまもる!!」」
まったくこの子達は良い子達だ。それを利用したワシが悪いのだが、それでは完全にワシが魔王と言ってしまっているから話が余計にややこしくなるではないか。
「サターナス様が魔王……そういえば先代の魔王の名は……サターナス!!」
アーマンドは今さらワシの名が先代というか前魔王の名前と同じだと気付いたみたいだ。
「そうだワシはサターナスだ! 元魔王と同じ名前で黒目の忌み嫌われる存在のワシに勇者が弟子入りを志願するなど知れば、国民いや国王はどう思うだろうかな?」
「そ、それは……」
おおどうやら少しは効果があったみたいだ。
自分の中の名前を聞いて嫌がられるというのは、それはそれで何処か釈然としないが今は実益を取る。
「もしこの事が国王にしられれば即時、勇者の称号は剥奪だろうなぁ。いやそもそも大聖剣を持たぬ自称勇者だから切り捨てられて終わりか」
どうだこれだけ悪い印象を持たせれば、さしものこやつも諦めがつくだろう?
「し、しかし私は……」
アーマンドはまだ逡巡してるが、アーマンドの仲間達が止めに入る。
「アーマンド、流石にこれ以上は不味いかも知れない。前魔王のサターナスはアルセーヌ様に討たれたとは言っても、その名に怯える人は多い。これ以上は国王様にお伺いしてからにしよう」
「分かった……ですがサターナス様、私はまだ諦めた訳ではありません。再びこの地に戻りサターナス様の教えを請いたいと思います」
どうやらようやく去って行ってくれたみたいだ。
これでようやく平穏が戻るはず。
「ねぇーねぇー魔王様、もうあのおじさんはこないの?」
「ああ、そうだと有難いな」
「ならもう外で一緒に遊べる?」
「そうだな幾らでも相手をしてやるぞ?」
「ほんとうに!?」
「ああ、お主らの頼みなら何でも聞いてやる」
「ならね、えっとね……」
何やらキケとサラで相談しているが言いづらそうにしている。
だが魔王城から続く勇者の嫌がらせのストレスから解放される癒しの源になってる、この子達の頼みならなんでも聞いてやれる気がする。
「ほれ、遠慮せずとも良い。このサターナスが叶えてやるから申してみよ」
「なら……」
「「でしにしてください!!」」
「いいぞ……って、え!?」
聞き間違いだろうか、まさかキケとサラがそんな事を言うはずがない。
「まてまて、お主ら今なんと申した?」
「だからね、魔王様にたたかいかたをおしえてもらいたいの」
聞き間違いでは無かった。本当に二人はワシの弟子になりたいのか? そんな素振りは今まで無かったではないか。
「わかった取り敢えず話をしよう。なぜワシの弟子になりたいのだ?」
「えっとね、魔王様がわたしたちがつよくなったら、いろんなところにつれていってくれるって言ったから」
「そう言えば、そんなことを言ったような気もするな……だがどうしてまた弟子などと」
「あのおじちゃんが魔王様はさいきょーっていってたから。魔王様におそわるのがいちばんかなって」
いやそれはそうか。しかしまさか、あの時の言葉がこうして繋がってしまうとわ。
「分かった、ほかでもないお主らの頼みだ。ワシに教えられることなら教えてやろう。だが危ないことは無しだぞ?」
「「はい! おししょう様!!」」
こうして自称勇者からは解放されたのだが、まさかキケとサラを弟子入りさせることになってしまったのだった。
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