第46話 相撃つ因果、竜星機とノーデンス
貝殻の旗艦甲板上にて今なお仁王立つ白翁の巨人。
その機体内で双眸を細めてモニターを見やるは
彼が魅入るは眼前に解き放った大軍勢をして、地球側——二柱の主力を打ちあぐねる状況である。
その
「これが地球の生んだ対魔討滅の志士、
「さらには主の操り人形と認識していたかの天使を駆る騎士。だが何が奴を変えたのか……最初ハスターが口にしていた陰りが霧散するほどの善戦、じゃと?」
業に塗れた人類は、観測者の助力を得て漸く一人前との見解を持っていた巨躯はその現実に裏切られたのだ。
それも良い方向にである。
そこまでを高みの見物として傍観していた大海の巨躯。
いつしかその魂を揺さぶる物が沸き始める。
「取り分けあの草薙とやらは、我が眼前であのクトゥグアとハスター両方を相手取り捌き切っておる。カカッ……何とも勿体無い話ではないか。」
ゴンッ!と、構えた
大海の巨躯はすでに、沸き上がる感情を抑えられなくなっていた。
と――
そんな大海の巨躯に宿った気概を台無しにする様な通信が、白翁の巨人モニターへ映像を伴って響き……気分を害された巨躯はモニターを占拠する蠢く影を睨め付けた。
『おや?まだその様な所で
言うに事欠いた蠢く影――
「そもそもお主が事を早めたのが要因であろうがっ!皆まで言わずともこのノーデンス、人類如きに遅れなど取らぬ――
言うが早いか、巨躯は白翁の巨人を貝殻の旗艦甲板より飛翔させると半物質化したマント状の膜を後方に
それが重力操作の類か――体躯にして40mに届く巨体を蒼き天空へ滞空させると、それに付き従う更なる尖兵の増援が徒党を組んだ。
「人類よ……。ワシらも都合と言う物がある故――許せよ?」
混沌が寄越した通信を強引に切断した大海の巨躯は、人類への侘びとも取れる言葉を残し――
蒼き地球の天空を、
その様を巨躯らに気取られぬ様送り込んだ監視用尖兵越し……地球衛星軌道上に制止する異形の機体内で、
「ノーデンス。貴君が
「故にまずは貴君を始めとした邪神群にて人類への情を生み……そして我らが我らたる狂気の本質を持って相対する。情を感じた敵対者――それが後方より来る味方であるはずの敵勢力の手に掛かる様などは、まさに憤怒と言う狂気を生むキッカケにもなりますからね。」
くつくつとほくそ笑む口元から漏れ出す狂気の旋律。
異形の機体内で蠢く影——それが何時しか一つの形を留めんと集まり始めた。
前髪で切り揃え、腰まで届く艶やかな漆黒の御髪。
形作られた双眸は金色の——まるで観測者と呼ばれたアリスを彷彿させる、幼さ滲む少女の体躯であった。
§ § §
『お前、
『待て、クトゥグア!こいつ——目を閉じたままでボク達を屠る……だとっ!?』
俺の行動に動揺を隠せない邪神娘の声が外部強制通信で響き渡る。
同じくその動揺は、アイリスからも感じ取れたが……こちらは邪神娘らとは違う羨望を込めたモノと直感していた。
草薙流に於ける最大奥義に次ぐ秘技の一つ。
純粋なる剣術での頂点を極めたそれは、後の先……そして先の先を取る万能型の技。
——草薙流閃武闘術 無の
それぞれ純粋な剣術としての秘技三つを融合させた、究極の武技の一は——
「狂気がだだ漏れじゃ、この俺に攻撃は届かねぇ……ぜっ!」
『お前、このカス――んぎゃっ!』
〈無双の型壱式
無の壱式が、狂気を抑える事を知らぬ爆風娘の神機・ハスターへ一撃を見舞い——
『この様な技——日の本の
〈無双の型弐式
そうとは知らず突っ込む燃え女の神機・クトゥグアへ、油断を突いた閃撃をお見舞いする。
『マス……ター!?これは……これが日の本の剣術!これが
俺の戦術的な動きをトレースしてオルディウスへ伝えるアイリスが驚愕の言葉を並べ立てた。
それを複雑な心境で聞きとめる俺——剣術の発展が殺し合いの上に成り立っている事実を知る故のものだ。
だからこそ、その剣術で遣り合う者同士が魂を賭ける意味がある。
相手の命を奪うならば、その業も、人生も……さらには奪った命を慈しんだ家族すらも背負う覚悟を乗せ——
そうやって剣術は高みへと至ったんだ。
そして——〈無双の型参式〉。
オルディウスから放たれる未知の剣術に、刹那の動揺を覗かせた邪神娘らが大きく距離を取る。
だが……その距離を刹那の足捌きで奪い去る御業——別名
機体に内臓されていたシステムである、〈
B・F・Dは、感知した空間位相へ重力場作用を及ぼす膜を生むシステム——言うなれば何もない空間に大地と言う足場を構築する神世の技術だ。
『……草薙っ!?』
『界吏——がっーーっ!?』
同時に振り抜くはアメノムラクモによる居合いの一撃。
刹那に
人型限定ではあるも、一対多数の立ち会いを得意とする草薙の剣術で大きく優勢を引き込んだ俺だったが——
その直後に一番厄介な存在が動き出し、呼び込んだ
『ぬぅおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーっっ!!』
『マスターっ!?警戒を厳に!ノーデンスが……来ます!』
アイリスの叫びと通信に割って入る怒号が重なり——俺はそれを目にした。
体躯はオルディウスを大きく上回る巨人。
姿は白翁を思わせるが、それは年老いた老夫などではない……数多の神話で言えばオーディーンかゼウスの如き主神を彷彿させた。
さらに振り翳した得物を見るや海神ポセイドンが最も近き姿と悟った俺は——対策を思考する間もなく……猛烈なる巨人の激突で海面へ叩き付けられた。
そのまま止まらぬ勢いで海中へと押し込まれた俺の頬を冷たい物が伝う。
地上重力下且つ大気圏内通常圧力での優勢状況を考慮し、剣撃を主体とした調整である竜機の現状——そんな優勢を吹き飛ばす劣勢条件が揃ってしまったからだ。
「こいつぁやべえぞ!?俺もまさか海中で戦闘するとは想定して無かった……!アイリスっ、すぐに必要データ——っがっ!?」
『お初にお目にかかるな、草薙の若衆よ!言うまでも無かろうが……我は大海の旧神ノーデンス!だが——』
『先ほどウチのお転婆共を穿った勢いはどこに行った!?そんな程度ではこのワシを屠るなど夢物語ぞっっ!!』
豪気な名乗りが耳を打つ。
その豪快さは、それこそ邪神と言われねば分からぬ程に正気に満ち溢れる。
端々から漏れ出す圧力も、狂気とは違う愚直な闘志とも取れる霊圧だった。
故に直感する。
こいつは強いと——
程なく俺は神機・ノーデンスが加わった邪神三体との海中戦と言う、未曾有の戦況へと叩き込まれたんだ。
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