第30話 武士と炎の化身、騎士と黄衣の王
それが訪れるまでは想定だにしない事態。
しかし眼前の邪神共は人類への審判を与える存在ながらも、互いにいがみ合うと言う現実。
視界に捉えた現実はまるで人類のそれと同じだった。
俺達人類も大小組織やあらゆる世界の事情の違いはあれど、その本質的な所に変わりは無く――そんな本質が、邪神と言う人類を超越した様な奴らにですら当てはまる
感覚的にそれこそが、俺達人類の付け入る隙になると……直感めいたものが思考に光を灯していた。
無用に戦火を撒き散らすのが好みではないと察する燃え女は、まず堕としておきたい標的であり――己の行き過ぎを自粛した聖騎士が爆風娘を足止めるなら好都合……早急にこちらを片付ける必要ありだ。
「待たせたな燃え女!一騎打ちの再戦と行こうかっ!」
『
すでに俺と一戦交えるつもりだった燃え女は、機体を近接戦闘モードと思しきそれへ変化させ……先の炎滾る超振動プラズマブレードを抜き放つや――
お馴染みの物理法則を捻じ曲げる移動法で近接して来た。
だがすでに初見でそれを披露された俺としては、同じ
奴の動きを先読みし、有利を手にするためのデータ――それはこの蒼き星の体温ともいえる大気温度の変動数値だ。
「アイリス、クトゥグアとやるためにはまずこの英国海上……ここいらの大気温度データが必要だ!俺達が生きるこの星の大気圏内は、生命の体内と同義――」
「奴がそれを利用してるってんなら、こっちはその生命のバイタルデータで奴の動きの目処を立てる!」
『なるほど、それは地の利と言う概念ですね!了解です、マスター……英国海上周辺の気象データから、海上より大気層までの温度分布をリアルタイムで計測――表示します!』
振り抜かれる炎の異形が振り抜く刃。
それを寸でで交わしつつ、データ計測を待つ。
だがそれは刹那の攻防……燃え女は実力の本質を巧妙に隠しつつも、全力を演じる様に得物を振るい――
けれどやはり、一騎打ちとの厨二病的な知識でクソ真面目に突っ込んで来ていた。
真の武の決闘を知る身としてはどう考えても、一騎打ちを台無しにする後ろの
事態が
『マスター、計測完了です!大気の温度状況をリアルタイム送信、開始します!』
「(いいぜ、流石は
そう――アイリスがデラーズ・ドレッドを発進させるも、燃え女の突撃が一歩早く……結果それを換装出来ていないのが現状だ。
その時点で一騎打ちに内包される正々堂々が破綻していると言えるのだが……俺はそれを逆に利用させて貰った。
ドレッドがオルディウスへドッキングしようがしまいが、こちらの通信回線へ奴が強制介入している以上は作戦がダダ漏れだ。
だから今より俺からアイリスへ送るのは、
正々堂々が破綻しているならその点では、わざわざこちらも奴の都合に合わせてやるつもりは無い。
俺と奴の一対一と言う点に関してのみ、燃え女の気概に免じて貫かせて貰う算段としていた。
『これは……量子思念疎通法ですね!(クトゥグアの武装への対応――あります!むしろそれこそテラーズ・ドレッド換装が意味を成す手段です!こちらを……!)』
「(ほう?これなら行けるな!でかしたぜ、アイリス……んじゃまこいつを一端引き離して――)」
モニターへ弾き出された武装強化案。
それはアメノムラクモが現状、高次量子物質化を成している故の武装強化の手段。
ドレッド換装により得られる外部高出力を用い……物質を構成する素粒子を相転移により高次元物質化するもの。
早い話が刀本体の持つ霊剣としての本質を、そのまま巨大物質化刀剣へ投影させる事だ。
アメノムラクモが霊剣と言い伝えられる
人類が住まう三次元の物質では傷さえも付けられぬと言う、神世の奇跡を体現した事実に他ならない。
現状真っ二つが待ったなしの巨大刀剣を、燃え女の剣と交えさせぬ様攻撃をかわし――回り込んだ後機体の死角を付いて、距離を取りつつ機を覗う。
俺の視界の端で新たな邪神である爆風娘と善戦する、聖騎士への賞賛の一瞥を贈りながら――
§ § §
『最初から君の相手を頼まれていたんだけどね?正直乗り気ではなかった訳さ。分かるかい?この腐れ天使君。だが気が変わった――』
『君をボクにとっての、地球襲来に於ける最初の獲物として血祭りにあげて上げよう!何、礼なんて無用さ!』
相手を
ただ猛獣が獲物を見据え狩りを行う様に。
しかし――
「御託はそれだけか?愚かに神を気取る異形の者よ。観測者?話にもならぬ。我が崇めるはたった一つの
「観測者などは我の眼中に無し!我はただ主の力であり裁きの代行者
相手取るはか弱き獣ではない。
弱小で矮小な人間などではない。
それは生涯を弱者のために捧げし断罪と無慈悲の化身。
彼の剣は主の怒りであり、激昂であり――憤怒である。
ヴァチカン13課が誇りし神罰の代行者……
『んなっ……くあっ!?』
炎の化身は人間への
だが黄衣の王は、最初から人間など矮小と舐めてかかっているのだ。
それは観測者と言われる者の
力ある者の一部は己と比べて格下と見た者へ、決まって
だが――だが、だ。
その背に守るべき弱者を背負う生命は、時として超常の力を発揮しえる。
それは蒼き星地球と言う生命の揺り篭が連綿と受け継ぐ、命の奇跡の一端なのだ。
裁きの力纏う一閃が黄衣の王の機体懐を
邪神が持つ狂気を全て無かったかの様に切り裂く一撃が、王の慢心へ襲いかかる。
そして銀嶺の翼を羽ばたかせて空中へ滞空する天使兵装から――今度は
「その様な遊び半分で
「あれは貴様の様な小さな器ではない。戦う術や御家の名などでは言い表せぬ何かを、奴は――
彼にとっての神と呼べる存在は、己が信ずる主以外にはあり得ない。
故に眼前の黄衣を纏う風の化身を邪神モドキと
神を恐れぬ諸行も相手を神とも思っていなければ、恐れる必要などハナから存在しないと。
同時にその
『……へぇ――ボクが邪神モドキ、だって?この腐れ天使――』
『腐れ……天使がーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!』
爆発する狂気は大気を振動させ、時空さえも歪めんと
刹那、触手を形取る複列可動スラスターが
高密度に圧縮された負の霊量子の刃が、無数に舞い飛び天使兵装を取り囲むと――
高らかに掲げられた王の手が振り下ろされると同時に、天使を……空間ごと
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