第21話 追う邪神と、追われる救生の当主
「アイリス、さっさとヒュペルボレオスへ向かおうぜ!あのクゥトグアの奴、ガチで追いかけてくるはずだ!」
『了解です、マスター!離陸準――きゃあ!?』
「――くっ!?手出ししねぇのは、乗り込むまでの間かよ!」
テラーズ・ドレッドへ搭乗する間は手を出さぬと口にした炎の邪神。
礼節を弁えていたと思いきや、それは単なる気まぐれだったのか――乗り込んだのを確認するや否やの熱線強襲。
それでも離陸を始めた輸送機や民間人の避難を終えぬ空港施設を狙わない当たりは、それなりの矜持を以って動いていると察した。
だが滑走路は言うに及ばず、至る所に熱線で穿たれたクレーターが増え続ける。
すでに人類には多大な被害が出てるだろうと突っ込みたくなる所。
肝心の
「行くぞ、アイリス!さっさと
『はいマスター、早急にここを離脱します!……対G相殺システム起動!機関最大、テラーズ・ドレッド——
有人飛行となる事を考慮したアイリスにより、機体離陸準備が整うや——
まず現代の地球上ではあり得ぬ急激な垂直離陸を実現するテラーズ・ドレッドが、ヒュペルボレオス方向へ反転するとほぼ初期加速を経ない速度で大気を切り裂いた。
俺の座したコックピット内モニターでの計測速度は、ほんの数秒でマッハ5相当を叩き出す。
大気圏ギリギリを吹っ飛ぶ超音速偵察機SR‐71を超える速度——それをこんな地上空域から瞬時に叩き出す桁違いの出力は、まず現代兵器ではお目に掛かれない所。
そんなオーバーテクノロジーの塊すら変則機動で追い立てるクトゥグアは、脅威以外の何者でもなかった。
「くそっ……クトゥグアの奴、
『まさにです、マスター!アレは地球上の物理法則を歪めながら移動しています!——ですがそれは、歪める媒体が大気中へ満ちているからこそ叶う所業でもあるのです!』
「なるほど……そりゃ、大気中の熱だな!炎の邪神ならばそれが妥当だろう!」
『ご名答……察しがいい。良きかな——良きかな。』
変則機動と察したそれが、一つの法則に則った動きに感じた俺はアイリスへ問い——その会話に外部音声では無くダイレクトに思念へ割り込んで来た燃え女。
今も無数の熱線を撒き散らすそれへ、せめてもの苦言を返納しておく事にしよう。
「こっちはアイリスと大事なコミュニケーション中だ!イキナリ思念波で割り込むんじゃねぇよ、燃え女!」
『ぬっ……会話中だったと?失礼をした。陳謝。』
「お……おう(汗)」
そしたら俺の苦言へ、普通に通常通信で謝罪を送って来た。
ちと仰天して呆けた返事を返してしまう。
全く……調子が狂うったらありゃしねえ。
それでも攻撃の手を止める事の無い容赦なさは変わらず——
テラーズ・ドレッドの機動力に任せて回避を繰り返し……まさにあっという間に視界へ捉えたヒュペルボレオス。
現在司令室で指揮を執っているであろう少佐へ、ここぞとばかりに通信を飛ばした。
「
モニターへ映った少佐は……アイリスの思考で感じた様に、幾分弱まった険しさでこちらを見据える。
そして——
『了解しました。
ほんの少し——ほんの少しだけ口元を緩めた女性独特の柔らかな雰囲気へ……思わず胸を高鳴らせてしまう俺であった。
§ § §
音速を軽々超える
体躯にして
『そしたらこいつがドッキングを敢行する!』
「了解しました。
鳴り響いた通信より、
その僅かなやり取りにも先の様な険悪さが鳴りを
そして局長が見守る中で、ヒュペルボレオスの正式稼動とも言える指示が——罪に舞う少佐より放たれる事となる。
「ではテラーズ・ドレッドが早々のドッキングを行える様、各員……
『『うえーーいっ!!』』
『こら、あなた達!?す……すみません少佐——』
「お小言は後——今は任務に集中なさい!」
『りょ……了解です!』
お騒がせオペレーター二人は、放たれた言葉へさしたる配慮も礼儀も持ち合わせておらず——慌てた
未だ両者の関係はぎこちなさを残すも、星を守りし機関が目指す防衛体勢として漸くの始まりを見る事となった。
指示に従いカタパルトレーンへ
現在パイロット搭乗を見ないままのそれが、射出レーンにより亜音速まで加速……さらに炎の化身を振り切った
『マスター!牽引ビームを展開し、
「ああ、了解した!今まで散々やられた分を、燃え女へと返納してやろうぜっ!」
『はい!返納して差し上げましょう!』
直後……ヒュペルボレオス上空へ舞う
機体を折り畳む様に可変させた翼が、竜機背部に開く大翼となる。
ドレッド翼が半物質化した
今まで本体機関出力頼りの運用であった竜機へ、外部出力を基盤とした高機動性能が付与されたのだ。
さらには——
合体に合わせ、白を基調とした機体色に蒼の光が舞い——竜機の機体表面が
機体装甲表層へ配されるは霧状ナノマシン・コーティングシステム〈ミストル・フィールド〉……それが霊的電化を帯びた際、対物理防御力へ対光学防御を上乗せした
ドッキングを終えた
その姿へ底知れぬ実力を感じ取った
遂に本性を猛る炎と供に現す事となる。
「待ち侘びた――そう、待ち侘びたよ!それだ、その希望宿す輝き!私が穿ちたいのは、それ……お前!竜星機っ!!」
炎の化身の咆哮が響くや異形の女神の面が割れ――悪鬼の如き顔が姿を現す。
同時にコックピット内で機体と同化する炎の化身は、見開く双眸へ狂気を宿し……爆炎を光塵に変えて
剥き出しの狂気に包まれた片腕が竜機の頭部を握り潰す様に捉える。
先に救生の当主が推察した物理法則を歪める様な動きに、彼を以ってしても反応が後手となり――
「……っぐああああああああっっ!!?これ――はっっ!!?」
刹那に救生の当主へ流れ込んだのは、今まで深淵の尖兵が運び来た人の業が生む狂気――その程度の物など霞に消えるほどの恐るべき気配。
襲い来たのは紛う事無く、這い寄る混沌に準える邪神が持ちえる狂気の本質であったのだ。
その狂気は人を狂わせ、恐れさせ、正気を削り取る。
その狂気を受けた者は正常を瞬時に崩壊させると、数多の語り部が警告して来た。
「竜っ!炎っっ!!当主っっっ!!!……私を楽しませる!それがお前達に課せられた試練!」
「
異形の女神が悪鬼の如き姿で竜を食らう。
狂える邪神を相手取ったのが過ちであったと警告する様に――
狂える存在を敵に回したのが命取りであったと魂に刻み込む様に――
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