第57話 親なら子どもにグチを聞かすな!

〈登場人物〉

マイ……中学1年生の女の子。色んなことに腹を立てるお年頃。

ヒツジ……人語を解すヌイグルミ。舌鋒鋭め。



マイ「あー、やだやだやだやだ!」


ヒツジ「どうした?」


マイ「夕飯中、お父さんとお母さんがずーっとグチってんの。お父さんは、ガソリン減税の代わりに新税が導入されそうでムカつくとか、アフリカのホームタウン認定で移民が増えそうでケシカランとか、どうとかこうとか。お母さんはお母さんで今日行ったスーパーのレジ担当の人の接客態度が良くなかったとかなんとかさ。食べている間中ずっとだよ! 頭がおかしくなりそうだったわ。親のくせに子どもにグチ言うとかありえないでしょ!」


ヒツジ「親と言っても神様じゃないんだ。人間だからグチを言うこともあるだろ」


マイ「あっ、やめて! その『人間だから』っていう言葉、大っ嫌い! 人間だからグチを言う? だったら、人間だからゴミのポイ捨てすんの? 人間だから万引きするって? 人間だからいじめをするわけ? 『人間だから』なんてこと言い出したら、全部がそうなるじゃん! やっちゃいけないことは、やっちゃいけないわけで、そこに何かやっていい理由みたいなのをくっつけたら、やっちゃいけないことにした意味がないじゃん!」


ヒツジ「お前にとって、グチはやっちゃいけないことなのか?」


マイ「いけないでしょ。だって、聞いている人を不快にさせてるんだから! 知らないよ、税金が高いからって、それが何なの! そんなことを聞かせるために子どもを生んだのだとしたら、いっそ生まないでほしかったわ!」


ヒツジ「まあ、確かに、グチをついたところで別に何も事態は好転はしないからなあ」


マイ「そうでしょ!」


ヒツジ「それでも、人はグチをつく。これはどうしたことなのか」


マイ「知らないよ、そんなの!」


ヒツジ「現状に対してどうすることもできなかったり、できてもする気が無い人の発作みたいなもの……と考えたらどうだ?」


マイ「じゃあ、グチを言う人って病気だってこと?」


ヒツジ「自分の力ではどうにもならないことに文句を言ったり、どうにかなりそうなことに解決策を探そうともせず不満をぶちまけたりする行為は、健康な精神状態とは言えないだろう」


マイ「病気か……まあ、そう考えると、ちょっと可哀そうに思えてはきた。でも、やっぱり聞きたくはないな。特に親からは」


ヒツジ「お前はそう言うが、親が子にグチを言うっていうのは、ある意味では、理の当然なんだ」


マイ「どこが当然なのよ」


ヒツジ「なぜ彼らがお前にグチを聞かせるのか考えてみよう。それは、聞いてもらえると思っているからだ。そして、どうして聞いてもらえると思っているかと言えば、それはお前のことを下に見ているからだ」


マイ「はぁ!? 下に見るってなんで!? ムカつく!」


ヒツジ「親が子を下に見るのは当たり前だろう。彼らはお前を養っているわけだからな。彼らからすれば、養われているお前には、無条件で自分たちの言葉――グチを含めて――を聞く義務があると思っているわけだ」


マイ「えっ、じゃあ、なに? わたしが独立するまで、ずっと親のグチを聞かないといけないの? 少なくとも、親はそう思っているっていうわけ?」


ヒツジ「そういうことになるな。お前が彼らの支配下にある限りは、彼らのグチを聞く立場にある」


マイ「普通に嫌なんだけど」


ヒツジ「彼らとの間の上下関係を変えるための一挙としては、反抗期を演出することだろうな。盗んだバイクで走り出したり、校舎の窓ガラスを壊して回ったりすれば、親はお前に一目置くようになるかもしれない。まあ、しかし、そうすると、親からグチを聞かなくてよくなる代わりに、今度は別種のお前を下に見るものたち、例えば警察や世間が、何か言ってくるだろうな」


マイ「でもさ、グチを子どもに言わない親だっているよね」


ヒツジ「いるだろうな」


マイ「じゃあ、わたしが親ガチャを間違えたってことだね、あーあ……」


ヒツジ「と言うお前だって、同じ穴のムジナだということに気がつかないか?」


マイ「どういうことよ」


ヒツジ「今まさに『親のグチがうるさい』っていうグチを言っているだろ」


マイ「…………」


ヒツジ「人は何かを言う時、自分だけはその言ったことが適用されない特権的な立場にいると思いがちだが、そういうわけにはいかないんだ。親のグチが嫌なら、早く自立できるように何でもいいから何かしら行動すべきだと思わないか?」

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