第46話 「ぶった切る」ってどういうこと?

〈登場人物〉

マイ……中学1年生の女の子。色んなことに腹を立てるお年頃。

ヒツジ……人語を解すヌイグルミ。舌鋒鋭め。



マイ「ねえ、ネットでよく見る『〇〇が××をぶった切る!』みたいな記事、あれってどういうこと? 『ぶった切る』って、つまり一刀両断して、もうそれ以上議論にならない、みたいなことじゃないの?」


ヒツジ「まあ、言葉の意味としては、その通りだな。相手の意見を完璧に論破して、沈黙させてしまう、といったニュアンスだ」


マイ「でしょ? でも、そういう記事って、ぜんぜんぶった切られてないんだよ。記事のコメント欄とか、他のネットニュースとか見ると、ぶった切られたはずの『××』の意見が一向に収まってないんだもん。むしろ、さらに燃え上がってたりして。それなのに『ぶった切る』って言葉を使うのは、おかしいじゃん!」


ヒツジ「その理由の一つは、その記事を書いた記者が、記事が書かれたその時には、『ぶった切った』と感じていたということが挙げられるだろうな。あくまで記者の主観的な評価を、強い言葉で表現しただけだ。記者が『これは痛快な論破だ!』と感じたから、『ぶった切る』と書いた、それだけのことだ」


マイ「えー、でもそれって、すごく無責任じゃない? 見た限り、全然ぶった切れてないのにさ。簡単にそんな風に書くなんて」


ヒツジ「まあ、今の理由は割と上品なもので、もっと下品なものとしては、そうして、だからこそ、こっちの方が本当だと思うが、アクセスを集めるためだろうな。『ぶった切る』という刺激的な言葉を使えば、多くの人が『なんだ、なんだ?』と興味を持ってクリックしてくれる。お前だって、クリックしただろう?」


マイ「う……まぁ、したけど……。でもそれって、せこいじゃん。『○○が××に反論』とか書けばいいのに、わざわざ煽ってさ。そんなやり方で記事を書くのを、『記者』って言えるの?」


ヒツジ「お前が思う記者の役目というのは、『真実か、もしくは少なくとも真実であると心から信じられることを書くこと』だろう」


マイ「そうだよ。それが記者の仕事じゃないの?」


ヒツジ「理想はな。だが、残念ながら、真実などというものは、ほとんどの場合、はやらない。多くの人は、複雑な真実よりも、単純で刺激的なストーリーを求めている。だから、そういう真実を書く記者は、メシの種に困ることになる。読者が真実を求めていないのだから、記者は真実を追究する動機づけが無い、ということだ」


マイ「ひどい……。じゃあ、そういう記事って、いったい何の価値があるわけ? ぜんぜん真実じゃないんだったら、読むだけ無駄じゃん」


ヒツジ「そういう記事の価値は、それは、『○○や××といった有名人が口論する様子を、安全な場所から野次馬的に見物できる』という点にある。言わば、格闘技の観戦みたいなものだ。自分自身が争いに巻き込まれることなく、誰かが誰かを論破しようとしている様子を見て、スリルやカタルシスを感じる。コメントによって参加した気にもなれる。そういう疑似体験こそが、ああいう記事の価値なんだろうな」


マイ「もうわたし、ああいうタイトルの記事、今後一切読まないようにする」


ヒツジ「それがいいだろうな。結局のところ、全然ぶった切られてなんてないわけだから、読むだけ人生の時間の無駄遣いだ」

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