四百字の恋文
原稿用紙に恋心を綴る。
想いを寄せるあの人へ。彼が卒業してしまう前に。
放課後の図書室、窓際の席。受付カウンターから見えるその場所に、彼はいつも座っていた。
夕方になると、その空間は茜色に染まる。本を読み耽る横顔、夕焼けの中に浮かぶシルエット。私は彼に恋をした。
図書館の静けさは、好きだけど嫌いだった。ページを捲る音が聞こえる度、鼓動が届いてしまわないかと心配で堪らなかった。
「彼、文芸部の部長さん」
図書委員の先輩が教えてくれた。
「読んだり書いたり。小説が好きなのね」
私のは小説ではないけれど、原稿用紙に書けば読んでくれるかもしれない。
四角い升目を一語一語、甘酸っぱい言葉で埋めていく。素直な気持ちで満たしていく。
最後の二文字は私の名前。初めにそう決めていた。
なのに、指が震えてしまう。
彼が帰ったあの席に、私はそっと恋文を置いた。
結局勇気が足りなくて、埋められなかった、あの二マス。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます