四百字の恋文

 原稿用紙に恋心を綴る。

 想いを寄せるあの人へ。彼が卒業してしまう前に。



 放課後の図書室、窓際の席。受付カウンターから見えるその場所に、彼はいつも座っていた。

 夕方になると、その空間は茜色に染まる。本を読み耽る横顔、夕焼けの中に浮かぶシルエット。私は彼に恋をした。

 図書館の静けさは、好きだけど嫌いだった。ページを捲る音が聞こえる度、鼓動が届いてしまわないかと心配で堪らなかった。


「彼、文芸部の部長さん」

 図書委員の先輩が教えてくれた。

「読んだり書いたり。小説が好きなのね」

 私のは小説ではないけれど、原稿用紙に書けば読んでくれるかもしれない。



 四角い升目を一語一語、甘酸っぱい言葉で埋めていく。素直な気持ちで満たしていく。


 最後の二文字は私の名前。初めにそう決めていた。

 なのに、指が震えてしまう。




 彼が帰ったあの席に、私はそっと恋文を置いた。

 結局勇気が足りなくて、埋められなかった、あの二マス。

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