閑話、アサギは見た(塔の関係者会議)
「アサギ様、部屋の寝床を整えておきましたよ」
ありがとう、やわらかい人。
この人はいつもハナをやわらかくしてくれる。だからやわらかい人なの。
「お、姫さんの『麟』は、もう寝るのか?」
まだ寝ないの。あと名前で呼んでもいいのよ?
この人はつよい人。ハナのために神王様がつよい人につよい恩寵あげてたから。
「筆頭、姫様は入浴されていますから、部屋に戻るまでまだ時間がかかると思いますよ」
うん。ハナはお風呂が大好きでいつも長いんだよ。アサギも一緒に入りたいけど、ハナに合わせるとのぼせちゃうの。
この人はぎんいろ。メガネかけてて、とても頭がいいの。
「……あの方が……入浴されているだと……」
鼻をおさえてプルプルしているこの人はきらきら。
なんかきらきらしてるから。ハナも「キラ君」って言ってたし。
「新しい騎士様は、まだまだ修行が足りないようですね」
ため息をついたのは、せばす。
ハナがずっと「バスチアン、バスチヤン、バスチャン、セバスチャン……」ってブツブツ言ってたの。今は「セバスさん」って呼んでるから、アサギもせばすって呼んでる。
「じゃ、俺は明日の仕込みがあるから先に行くわ。食堂は適当に片付けておいてくれ」
きんにくがムキムキ話してるの。すごいきんにくなの。
やわらかい人と仲良しなんだって。きんにくはかたいから、やわらかいのとちょうど良くなるのかしら?
アサギが食堂にいるのは、いつもハナがお風呂に入っている時にこの人たちが話しているのを聞きたいからなの。
だって、話しているのはいつもハナのことなんだもの。
「さて、報告会だ。モーリスからは姫さんの好みは果物を甘く煮て冷やしたやつと報告を預かっている。干した果物を戻して使用するのも好ましいそうだ」
「大至急、果物を取り寄せましょう」
やわらかいのがキリッとしているの。アサギのもよろしくね。
「もちろん、アサギ様のもご用意しますよ」
やったね!
「予算管理はジャスターに任せているが、姫さんの予算はまだ大丈夫だよな?」
「姫様は国からの支給金をほとんど使っていません。もっと使っていただかないと、来年の予算が減らされてしまいます。紙とインクと数種類のペンの他に、絵の具や画材道具なども取り揃えましょう。それから本がお好きなようなので、流行りの作品も。それから音楽関係の本と楽譜もですね」
「服や装飾品はどうだ? あの方のことだから、神王様から賜ったものしか着ていないのでは?」
きらきらが良いこと言った。そうなの。ハナは可愛いから色々なのをつければいいのに、いつも同じなの。
「私の娘のお古を所望されましたが、さすがに似たようなものを作らせました。動きやすい簡易ドレスがお好みのようです」
「機能性を高めた女性の服を王都から取り寄せよう。昔から懇意にしている仕立て屋がある」
「お、さすが元・国の騎士だな。姫さんの好みのやつで頼む」
「……後ろボタンのものにしておこう。そこの動物があの方の胸元にいたのを見て、心臓が止まりそうになった」
こらきらきら! アサギは動物じゃなくてアサギだよ!
でもハナの服の中、いい匂いがして温かくて、また入りたいなぁ……。
「服の中は禁止だ」
つよいのが怖い顔してる。しょうがないからあきらめるの。
つよいのは本当につよいの。でもアサギだって、もうちょっと大きくなれば勝てるのよ。たぶん。たぶんね。
「俺からだが、姫さんが最近何かを言いたそうにしている。だが、聞いても答えてくれないんだ。誰か何か知ってるか?」
「その件かは分かりませんが、ひとつよろしいですか?」
せばすが何かを知ってるみたい。アサギも知りたい。
「なんだ?」
「春姫様は、どうやら騎士様方の行う朝訓練を見学されたいようですよ」
「は? 朝の訓練を? 見ても楽しいもんじゃないだろうに」
「確かにそうかもしれませんが……もしや春姫様は、騎士様たちの実力を知りたいと思っているのでは?」
「それは前回の行軍で分かってるんじゃないか? 俺は魔物の群れを殲滅したんだぞ?」
「そうですよね。筆頭がいれば何があっても大体平気そうですよね」
ぎんいろがコクコク頷いてて、横でキラキラも頷いている。アサギもコクコクするよ。
あ、やわらかいのが何かを呟きながら悶えてる。
「まぁ、姫さんが見学したいっつーなら、俺らももう少し真面目に訓練するか」
「え? 筆頭、今「もう少し真面目」とか言ってました?」
「ちょっと待て。朝の訓練が、あれ以上になるというのか?」
つよいのの言葉にぎんいろときらきらがヒソヒソ話している。そんなにこわいの? つよいのはこわいの?
ふるえる二人をそのままに、せばすに色々とつよいのが聞いている。
「基礎の運動を増やした方がいいのか?」
「そうですねぇ、できれば薄着で訓練された方がよろしいかと」
「上半身裸になるとかか?」
「ええ、そうやって五感を高めるやり方もあると、かの有名な格闘家が行なっていたとか」
「そういや、そういう訓練も聞いたことがあるな。幸い塔の周りは穏やかな気候だし、明日から取り入れてみよう」
「是非とも」
アサギにはよく分からないけど、ここにいる皆がハナのことを大事に思っているのが分かるから嬉しいの。ここの空気は心地良いから、ちょっぴり眠たく……ふぁぁ。
「なんだ眠くなったのか? しょうがない、姫さんの部屋まで連れていこう」
つよいのにひょいっと抱き上げられる。服の上からでもムキムキしている何かに包まれながら、アサギは寝床まで運んでもらっちゃいました。
つよいのは、やさしいの。えへへ。
「な、なんでですか!! なんで皆さん上半身裸なのですかっ!?」
「春姫様、よろしければ騎士様たちに汗を拭う布を手ずから渡してやってくださいませ」
「て、てわたしっ!? 間近で確認作業!?」
「四季姫たる者、己の騎士を労うものです。これも春姫様のお仕事のひとつですから」
「ひえぇぇ……」
ひぇぇって言いながら嬉しそうなハナだから、よかったよかった。
さすが、せばすだねー。
「ふおぉぉ……」
ハナ、鼻血出てるよー。
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