クッチョロ!!

沙魚人

第1話 プロローグ

「行って来ます。」


美生みおは小さな声で言って、玄関のドアを閉めた。一旦、道路に出てから自宅の塀とカーポートの間の通路を通って、庭に行く。普通の家にしては、充分な広さの庭のすみに3メートル四方くらいのスチールの物置のようなガレージが置いてあった。


美生は鍵でガレージの扉を開け、バイクとヘルメットを出してまた鍵をかけた。バイクを押しながら通路を戻って、玄関の前に停める。


それは、一風変わったバイクだった。バイクなのに自転車のペダルがついている。というより自転車に小さなガソリンタンクとエンジンがついているように見えた。ヘルメットを地面に置いて、ガソリンタンクのコックを開け、キャブレターのティクラーをちょんちょんと押す。


美生は、バイクに跨がってべダルを漕ぎ始めた。少しスピードが乗ったところで「パン、パパン、パパパパン」と音がしてエンジンがかかった。Uターンして家の前に戻ると、バイクから降りる。


美生は、玄関の階段に座って、バイクを眺めている。眠たげに目をこすると小さなあくびをした。数分もすると、エンジンのアイドリングは規則正しく整い、回転が少し上がった。


美生は立ち上がって、ヘルメットからグローブを出して、ジーンズのバックポケットに突っ込んだ。ぼさぼさの茶髪を押し込むようにしてヘルメットをかぶって、顎のストラップを締める。再びジーンズのバックポケットからグローブを取り出して女性にしては骨ばっている手にはめた。


美生はバイクに跨がった。


「行くよ、クーちゃん。」


カチャンとギヤが入る音がして、軽快なエンジン音とともにバイクは走り出した。

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