第91話 いびつな川の字
「な、何よ、あまり見ないでよ」
お風呂上がりの凛ちゃん……いつもは少しウエーブの髪の毛が真っ直ぐに伸びていた。
化粧も勿論全くしていなく初めて見るスッピン姿……僕はむしろこっちの方が好きなくらい可愛い。
学校で見る優等生な一萬田委員長、メイド喫茶で働くミカンちゃん、そしてそのどちらでもない素顔の凛ちゃん……どれも素敵でどれも可愛らしい。
「一度で3度美味しい凛ちゃん……」
「やっぱり真くんって、本当にキモいよね」
「あああああ、また声に出てしまった……」
「どうでもいいけど、その態勢もキモいし」
「え?」
「いや……まあ、仲良くしてくれるのはありがたいけど……このロリ……」
凛ちゃんは僕をまたもやジトーーっとした目付きで見る……えっと変かなあ? ミイちゃんが眠いって言って僕に抱きついて来たから……。
僕は今胡座の上にミイちゃんを乗せ、そっと抱き締めていた……ミイちゃんは僕の胸に顔を埋めて、すやすやと寝ている「子供って体温高く暖かくて、柔らかくて、気持ちいいよなあ……」
「もう通報しなきゃいけないレベルだなあ……お風呂に一緒に入ってって言ったから私も自首しなきゃかも」
「ええええ? 凛ちゃん捕まっちゃうの!? そんなの駄目だよ!」
「いや、あんたのせいだし……ってかミイ寝ちゃったのか……じゃあ少し早いけど寝よっか」
「あ、うん、えっと……僕はどこで寝れば良いの?」
「その辺で寝れば?」
「えーーーー床で? 寒いよ~~せめて毛布を下さい」
「冗談よ……私のベットで……」
「…………え?」
「だ、だって客用のお布団とか無いんだもん……セミダブルだから詰めれば……」
「…………えええええ!」
「ミイがいるから変な事出来ないでしょ?」
「──変な事って~~どんな事かなあ、僕わかんない?」
「……真くん本当……きもい」
「あうあう……」
照れ隠し……場をなごませようとしたのは見事失敗し僕は少し落ち込む。
そんな僕を気にもせず、凛ちゃんはリビングと自室の仕切りを開く……思えば初めて入るかも知れない、凛ちゃんのお部屋……確かいつもリビングとダイニングキッチンだけで凛ちゃんの部屋は見た事はあるけど入った事は無かった。
僕でも軽く抱き上げられるくらいミイちゃんは小さい……でもそんな小さな子供でも、寝ていても……やはり凛ちゃんは少し怯えているようだった。
ミイちゃんをベットの真ん中にそっと寝かせると凛ちゃんが少し焦りながら僕に言う。
「ご、ごめん……ミイは端で……」
「え? あ、ああ……そか」
ミイちゃんをそっと壁際に移動させ僕がその隣に寝る……そして凛ちゃんが僕の隣に……ふわりと香る凛ちゃんの匂い……今日は同じシャンプーを使っているのに……ミイちゃんとは全然違う香りがした。
枕はクッションを代用して3人で掛け布団を使う……凛ちゃんの腕が僕の腕にピタリとくっつく……。
ドキドキが止まらない……心臓が痛いくらいに高鳴る……。
「真くん……ごめんね」
「え?」
「今日は……無理な事ばかり言っちゃって……」
「ううん、大丈夫……凛ちゃんの為なら……」
いつも助けて貰ってばかりいるから、その借りを、少しでも返せるなら……これくらいなんて事はない。
「──私の傷が……無かったら……多分私……真くんと…………」
「…………」
凛ちゃんは最後まで言わなかった……そして僕は何も答えなかった……。
凛ちゃんの傷は2つある、身体の傷と心の傷……。
傷なんて誰にでもある……産まれたばかりの子供にだって傷跡はある。
傷はそれぞれ深さが違う……そしてその傷は人によって痛みが違う……。
自分にとって深い傷でも他人には浅く感じるかも知れない。
僕は自分の事で精一杯だった……自分の傷だけで……精一杯だった。
でも凛ちゃんは僕以上に深い傷を背負っている……なのに僕の事を気遣ってくれた。いつも相談に乗ってくれた……いつも優しく接してくれた。
弱みを握っているから……なんて思ったけど、凛ちゃんなら僕ごとき簡単に一蹴出来るだろう……。
今はまだ僕には無理だけど……いつか凛ちゃんを癒す事が出来る様になれたら、そんな強い存在になれたら……凛ちゃんにとって頼れる存在になれたら……いいなって……僕はそう思いながら頭を横に振りそっと凛ちゃんを見る。
凛ちゃんは寝たのだろうか? 真っ直ぐに上を見ながら目を瞑っている。
僕も天井を見上げそっと目を閉じた……歪な川の字で寝る歪な関係の3人……。
いつか……本当の家族3人で綺麗な川の字で寝られたら……。
そしてその時……僕の子供を挟んで寝るのは一体誰なんだろうか?
そう思いながら眠りについた……。
そして僕はこの時夢を見た……可愛い小さな女の子を挟んで僕のお嫁さんと仲良く3人で寝る夢を……見た。
僕と一緒に寝ていたのは誰だったのか……朝起きた時には忘れてしまっていたけど、僕は後に、これから数年後に、この時の夢を思い出す……その時見た夢が……正夢だったって事を……思い出す事になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます