第56話 胸胸胸!


 ブラウスのボタンを一つ一つ外していく愛真、僕は何が起きているのか把握出来なくその姿をボーッと眺めていた。


 しかし、ブラウスのボタンが半分外れ、愛真のブラジャーがチラリと見えた瞬間僕は我に帰った。


「あ! え、愛真! な、ななななな、なに! なにしてるの!」


「ん? だって触るなら直の方が良いでしょ?」


「じ、直! 直って」


「服の上から触るよりも、直接の方が絶対に良いと思うよ?」


「えええええええええええええええ!」


「だって中途半端は嫌だから……」

 愛真はそう言うと再びボタンを、いや、待って、本気? 本気と書いてマジ?

 そんな使い古された古典的な言葉が頭を過る……いや、そうじゃないちょっと待て……この状況は一体…………ああ、そうか、そうだよ、なんだそういう事か、わかった。


 これを書いている作者は古典的なギャグしか書けない才能の無い奴……これもいつものワンパターンな展開だ。成る程ね、つまりいつもの通りこの後邪魔が入るって事か。恐らく肝心な所でお母さん辺りが入ってくるんだな……きっと……


 僕はそんなわけのわからない事で安心すると、愛真のその行動を余裕を持って見つめる。

 

 愛真はボタンを全て外しブラウスをそっと脱いだ……さっきチラリと見た水玉のパンツとお揃いの綺麗な水玉のブラ……そして脱いでわかった。愛真の胸は服の上から見たよりも大きかった。こういうのを着痩せって言うのかな? 脱いではっきりとわかるその形の整った大きな胸がどーーーんと僕の前に……いや、その、す、凄い……


 愛真の身長は低い方だ、全体的に小さめの身体、でもその小さめの身体と全く比例していない大きな胸胸胸! 違和感さえ感じる程に主張していたお胸様……今、完全に服を脱ぎ、上半身ブラ一枚の愛真のその姿は、なおいっそう僕の違和感を増幅させていた。


 少し恥じらいがちに僕を見つめる愛真、しかし愛真の行動はここで終わらなかった。今度は背中に手を回しその綺麗なブラをも外しにかかった。


 はははは、でも僕は慌てない、大丈夫大丈夫、だって恐らくそろそろ来るから、そろそろ邪魔が入るからね。ほら、駄目作家、いつもの通りだろ、早くしないと外れちゃうぞ? では、はい~~どうぞ~~~~


 僕は恐らく愛真のお母さんが入ってくるであろう扉を見つめる…………………………あれ? 服を脱ぐ前に来ると思っていたが今回はなかなか来ない、でもさすがにここでは…………え? 来ないの? 


 僕はお母さんがいつまで経っても部屋に入って来ないので遂に焦り始め愛真に聞いてみた。


「あ、あの……え、愛真さん……その…………お母さんは?」

 背中に手を回し今にも外そうとしている愛真にそう問いかけると、愛真は僕を見て笑顔で言った。


「え? ああ、お母さん今お買い物に行ってるよ~~」


「えええええええええええええええええ!」

 ちょっと待ってちょっと待って、聞いてない、え? 何? つまり……今、僕と愛真はこの家に二人きりってこと? え? 何? つまり…………誰も邪魔が入らないって事? いや、ちょっと待って、え? 使い古されたシーンなんじゃないの?


 駄目だ、さすがにそれは駄目だ! こうなったらヘタレ呼ばわりされてもいい、逃げよう、とりあえず逃げれば……そう思い僕はベットから立ち上がろうとした。


 …………ああああああああああああああああ、そうだったあああああ、今僕は怪我をしているんだったああああああああ!


 そう……今の状態から逃げるには、まずベットから立ち上がり、扉の外へ一目散に走り、外に出るかトイレに駆け込んで鍵を閉めるしか……でも今の僕は立ち上がるのも愛真の部屋から出るのも物凄く時間かかる。ましてやその後走って逃げるなんてもっての他だ……ああ、駄目だ……詰んでる。


 逃げるのは無理、だとすると……僕は何か他の手が、この現状を打破する手が無いか、考え……ようとしたその瞬間、愛真の背中からパチンっと音がした。


 そして、ブラのカップが、愛真の豊満な胸に被さっていたカップが、ゆっくりと下に……そして……愛真の胸が露になるその瞬間……僕の脳裏に一人の人物が浮かびあがった。


『お兄様……』

 そう言って、悲しそうな顔で僕を見つめる泉の顔が浮かんだ。


 泉…………


 その瞬間僕は徐に愛真を抱き締めた。僕の胸に愛真の胸が、多分何も着けていな愛真の胸が当たっている。何か抱き合っているその間に凄く柔らかいクッションが挟まっている様な……そんな感覚が僕の胸に走る。柔らかいとにかく柔らかい感触が、その……えもいわれぬ様な感触に、脳が蕩けてしまう様な感触に耐えながら僕は愛真に言った。


「だ、駄目だよ……駄目だよ愛真、そんな簡単に……駄目だよ……」

 どう伝えて良いかわからない、でも駄目だ、いくら何でも……


「真ちゃん……いいよ、私は……いいの真ちゃんになら」

 僕の耳元でそう囁く愛真、その囁きに理性が崩壊しそうになった。そして僕の抱き締めている腕が緩みかけたその時に今度はみかん……凛ちゃんの顔が浮かんだ。

『佐々井君……』

 何か言いたそうな、残念そうな顔で僕を見つめる凛ちゃん、その顔が頭に浮かぶと僕は再び愛真を抱き締めしている腕に力を入れた。


「駄目だよ……こんなの、嫌だ……よ」


「どうして? 見たくないの? 触りたくないの?」


「そりゃ見たいし触りたい……でも……駄目だよ」


「……どうして?」


「だって……だって……愛真……無理しているから」


「……真ちゃん……」

 抱き締めるとわかる、愛真の身体が小刻みに震えている事が……


「無理してまで、愛真が無理してまで僕はそんな事したくない……だからごめん……恥かかせて……ごめん」

 僕がそう言うと愛真は一瞬ビクッと身体を震わせそして……


「ご、ごめん……ごめん、ごめんね……ご、めんな、さああああああああいい、真ちゃんんんんんんん」

 そう言いながら泣きはじめた。僕の腕の中で、上半身裸の愛真がワンワンと泣き始めた。


 








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