第47話 人付き合いは大変


 僕と凛ちゃんはベンチで暫く話をしていた、楽しい会話をしていた。

 なんの会話だって? そんなのメイドの話に決まってるじゃないか、みかんちゃんは英国風よりもビクトリアンの方が似合ってて良いって事を僕なりに懇切丁寧に教えて上げた。


「本当、佐々井君って……マジできもーーーい」


「酷い!」


「あはははは、さあ、じゃあ今日はとりあえず帰ろっか」


「そうだね」


「泉さんには私から話そうか?」


「ううん、僕が言うよ、そして凛ちゃんに謝らせる」


「良いよ、本当の事だし」


「駄目、僕は泉の兄だからね!」


「ふーーん、まあ良いんじゃない今はまだ、私もそっちの方が良いかも~~」


「そっちの方?」


「さあね~~」


 そう言って凛ちゃんはベンチから立ち上がる、僕も……



「っつ……」


「? 佐々井君どうしたの?」


「あ、いや、ここに来る前に転んで、ちょっとビリって膝が」


「えーーー大丈夫?」


「うん、大丈夫」


 僕はなんとか立ち上がる、いてててて……長時間座ってたせいか、立ち上がった時にかなり痛みが、でも歩けない事はなさそう。


 ゆっくり歩きながら凛ちゃんと公園を出てメイド喫茶の方に向かう。


「凛ちゃんて独り暮らしなんだよね?」


「うん」


「どこ住んでるの?」


「あ~~家に来たいって事?」


「え? いや、そんな……」


「どうしよっかな~~弱味を握られている人に教えたら何をされるか怖いからな~~」


「そ、そんな事しないよ!」


「あはははは、嘘、今度遊びに来る?」


「良いの?」


「良いよ、友達だもんね~~」


「やった~~ゲームやろうゲーム、……あ、あとね、あとさ……僕また皆と遊びたいんだ、この間の様に」


「遊園地の?」


「うん! 凄く楽しかった、また皆と遊びたい、泉も分かって貰えると思う、凛ちゃんの事……だから……」


「……うん……そうだね、そうだと良いね」


「絶対に大丈夫!」


 僕は凛ちゃんの方を向き凛ちゃんの両手を握る。


「佐々井君……」


「凛ちゃんはもう一人じゃないからね、僕も愛真も、そして」


「お兄様!」


「そう泉も…………え?」


「お兄様! やっと見つけた…………」

 はあはあと息を切らして泉が目の前に、ひょっとして……ずっと探してた? 僕を? 僕の事を?


「泉!」


「お兄様……やっぱり一萬田さんと……私よりも、私が言った事よりも……彼女を……妹の私よりも彼女を……」

 泉は僕を見て、僕と凛ちゃんを見て悲しそうな顔をする……そして僕らに背を向け走り出す。


「い、泉! 待って!」


 僕は泉を追いかけ、いや、追い掛けようと足を一歩踏み出した。踏み出した瞬間激痛が走る、膝の力が抜け、そのまま前のめりで倒れてしまった。


「さ、佐々井君!!」

 僕が倒れると同時に凛ちゃん叫ぶ、「お兄様!? お兄様!」そしてその、凛ちゃんの叫び声が聞こえて戻って来たのか泉の声が聞こえてくる。でも僕はあまりの痛みで二人の声しか聞こえない、姿を見ることが出来ない。



「いっっ」

 あまりの激痛に僕は何も考えられなかった……いや、一つだけ思った……やっぱり愛真は適当な奴だと言う事を……足、全然大丈夫じゃなかった。




 ####



 僕はそのまま救急車で病院に運ばれた。そして診断の結果は右膝内側側副靭帯損傷全治2ヶ月……だった。


「お兄様、ごめんなさい、お兄様」


「大丈夫、大丈夫だから、いたいからちょっと待って」

 車椅子で看護婦さんに押されながら診察室から病室に戻って来た僕を、泉が迎え入れる。

 僕はサポーターでがっちり固定された足を庇いつつ泉と看護婦さんに支えられながらベットに寝た。


「じゃあ明日退院となりますので」

 看護婦さんはそう言って病室を後にする。


「はい」

 とりあえず手術は免れた、靭帯が完全に切れていたら手術で繋がなくてはいけなかったらしい……まあ、そもそも愛真の所で止めておけばここまで酷くはならなかったらしいけど……愛真の奴……


「お兄様……一萬田さんから聞きました……本当に申し訳ありませんでした……」


「いや、僕は良いんだ、それよりも凛ちゃんが……」


「そうですね、一萬田さんには深く深くお詫び致しました。絶対に誰にも話さないって誓いも致しました」


「そう……それで凛ちゃんは、なんて?」


「私の大事な……大事な友達の妹に免じて許してやろうって、そう言って頂きました」


「そうか、あはははは」


「はい、お兄様……その……一萬田さんとは……その……お友達だったんですね……」


「うん? そうだけど?」


「私……てっきり……」


「てっきり?」


「……いえ! なんでもありません! さあ、お兄様退院の準備をしますね、帰ったらお兄様のお世話は全て不肖の妹であるこの私が」



「しんちゃあああああああああああん、大丈夫? 怪我したって本当!?」

 その時突然病室の扉が開き愛真が飛び込んで来た。


「あ、愛真さん! 病室に入る時はノック位」


「えーー良いじゃん個室なんだから、真ちゃん、そんなに酷かったんだ、ごめんね、お詫びに私が毎日真ちゃんの家に行って看病するからね!」


「いや、病気じゃないから」


「あ、ほらお風呂とか大変でしょ? 私が一緒に入って洗ってあげるよ!」


「え? あ、いや……えっと」


「ちょっと愛真さん! 他人の貴女にお兄様を任せるわけには行きません、お兄様のお世話はトイレもお風呂も妹である私が全部」


「と、トイレ!?」


「あら、居たの、気が付かなかった~~なったばかりの妹さん、でも真ちゃんの事は昔から知っている私に、姉である私に任せて貰って結構ですよ~~」


「居たのってさっき私を見て良いじゃんって言って……いえ、それよりも姉って……貴女は自分でそう言っているだけで、別に姉でもなんでもない赤の他人ですよね? しかも昔からって、海外に行かれて最近のお兄様の事は何も知らないですよね?」


「だから……なに?」


「いえ、そんな人に私の大事なお兄様を任せるなんて……」


「真ちゃん! どっちが良い?」


「え?」


「私と泉さん、ううん、姉と妹どっちが良い? どっちにお風呂に入れて貰いたい?」


「え? ええええええええええ?」


「お兄様、そっちの偽姉はどうせよくある水着でとかですよ、私は正式にお兄様の妹なんですから、そんな物は着ません、法律で認められていますからね」


「どこにそんな法律が、真ちゃん、私なら良いよ、ほら昔みたいにどさくさでツンツンしても」


「おい! あれは違うって」


「お兄様? ツンツンとは? どういう事か後でじっくり」


「佐々井君~~~元気~~~~」

 今度は凛ちゃんが病室に……なんてタイミングで……


「ああ、また……」


「佐々井君大怪我だったんだって、じゃあお風呂は私が、上は見せられないけど下なら何も履かないで~~」

 下だけって何そのシュールな絵面は……


「一萬田さん、一萬田さんはお友達でしょ? 何故お友達がそこまでするんですか? おかしいですよね?」


「ウンウン、おかしい、ただのクラスメイトで、ただの、単なる友達がそんな事言うのはおかしい」


「あら、お二人いらしてたんですか? でもほら佐々井君が怪我をした原因は私だからね、私の為に、私の為に怪我をしたんだから、私がお世話しないとね~~」


「なんで2回言った? 真ちゃんが最初に怪我をして倒れて居たのを介抱したのは私なんだから私のせいなの、だから私が」


「二人とも、最後に大怪我になったのは私を追い掛けようとしたからですよ、そもそもお二人は一緒に暮らしていませんよね、ですから私が全部」


「そうだ真ちゃん! 私の家に来れば良いよ、お母さん大歓迎だし、治るまで一緒に住もう、部屋は無いけど、私と一緒に寝れば良いよ、小学生の時、たまに一緒に昼寝したよね~~」


「佐々井君、家に来たいって言ってたわよね、ほら、私独り暮らしだから誰にも邪魔されないし……私が……」


「ちょっとちょっと、あなた友達でしょ? 友達と一緒に住むとかあり得なく無い?」


「あら、友達同士でシェアハウスとか今時普通ですよ、ただの幼なじみさん」


「お兄様! お兄様も何か言ってください、他人の家になんて住むわけ無いとはっきり言って下さい! 私が良いとはっきり」


「真ちゃん! はっきり言いなよ、私が良いって」


「佐々井君、私が良いよね? 佐々井君なら……私……」


「ちょっとちょっと待って、待って~~~」


「お兄様?」

「真ちゃん?」

「佐々井君?」


「大丈夫一人で全部出来るから! 一緒にお風呂とか無理だから!」


「お兄様が一人でなんて無理に決まってます」

「真ちゃんが一人でなんて無理だね」

「佐々井君……無理だよ」


「何でえ~~~」


 その後3人は僕を完全に無視してずっと口論していた……

 

 今回の結論……


 友達って、人付き合いって……

 やっぱりめんどくさ~~~~~~~い!



 ああ一人の方が良かった……のかなぁ……


 



(10万文字1巻終了です、とりあえず一区切り、ここまで読んで頂き有難うございます。)

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