第44話 全部嘘だよね

 

「佐々井君!?」


「ごめん凛ちゃん、待ち伏せみたいになって、ちょっと話したい事があるんだ」


「それは良いけど……どうしたの? なんかズボン汚れてるし」


「ちょっと転んで……それは良いんだ、ごめん時間あるかな?」


「うん、良いけど?」


 僕は凛ちゃんのお店の見える所で離れて待っていた。途中歩きながら凛ちゃんにメールを送ろうかと思ったけど、結局なんて書いて良いのか考えている間に着いてしまった……


 殆んどストーカー紛いの行為……でも凛ちゃんは僕に気まで使ってくれる。


 嘘であって欲しい、全部嘘で……



「どこで話すの?」


「すぐに終わる……と思うから、静かな所があれば」


「あ、じゃあそこの公園で良いかな、紅葉がライトアップされてるらしいの」


「うん」


 僕と凛ちゃんは近くの公園まで歩いて行く……ちなみにすぐに終わると言ったのは僕の嘘……僕はこの後、人に見られては困る事をするつもりだった。

 どうでも良いけど、膝の痛みがどんどん増している気がする……


 来たのは誰もいない小さな公園、殆んど使われていない様なブランコと滑り台がある。その近くに赤く色付いた紅葉の木が1本、でも……ライトアップではなく近くの電灯に照らされているだけだった……しかし何か偶然に演出されているかの様な佇まいで、とても綺麗に見えた。



「なんだ~~ライトアップじゃないよ~~~本当いい加減な事言って」


「誰かに言われたの?」


「うん、お客さん、近くに紅葉の木がライトアップされて綺麗だから一緒に行こうって、本当適当だなぁ」


「……よくそうやって誘われるの?」


「うーーん、真剣に誘って来る人は殆んどいないと思うよ、半分冗談って感じかな?」


「真剣に誘われたら行くの?」


「えーーーー行かないよ~~」


「……そか……」


「本当にどうしたの佐々井君? 何かいつもと違う雰囲気……え! 私告白とかされちゃう?」

 そう言ってケラケラと笑う凛ちゃん……そうだったらどんなに良かったか……


「凛ちゃん……僕は……君に聞きたい事があるんだ」


「え? な、何? シリアスな感じ?」


「うん、その前にまずは謝らせて欲しい」


「謝る?」


 僕はそう言うと痛む足を折り曲げ、その場に正座をした。

 そして頭を深々と下げ土下座をする。


「妹が、僕の妹が君の事を調べてしまったんだ。凛ちゃんのプライベートの事を……本当にごめんなさい、兄として、妹に変わって謝ります、ごめんなさい」

 僕は地面に頭を擦り付けるかの様に深々と頭を下げた。


「ちょ、ちょっと佐々井君!?」


「本当にごめんなさい」


「ちょっと待って、とりあえず立って、ね?」


 そう言われ僕はゆっくりと顔を上げる。目の前にしゃがみこむ凛ちゃん……電灯に照らされて見える凛ちゃんは困惑した表情を浮かべていた。


「とりあえず土下座とか止めて、ちょっと座って話そ、ね?」


「…………うん」

 痛む膝をバレない様に庇いながら立ち上がり、ゆっくりと公園のベンチに向かう。すると凛ちゃんは方向を変え小走りで走っていく。


 一瞬逃げたのかと思ったが、走っていく先に自動販売機が見えた。恐らく飲み物を買いに行ったんだとわかった僕は先にベンチに腰かけ凛ちゃんを待った。


「はい、コーヒーで良い?」

 熱そうに二本の缶を持って来た凛ちゃんは缶コーヒーを僕に渡す。


「あ、うん、お金」


「いいよ、驕り」


「あ、うん……ありがと」


 凛ちゃんは隣に座ってココアの缶を開け一口飲む、僕もコーヒーを一口……そして目の前の紅葉の木を一度眺め土下座で興奮していた自分の気持ちを落ち着かせる。


 暫く二人で黙って紅葉を見ていた。そして僕が何か言おうとしたその機先を制するかの様に凛ちゃんが先に口を開いた。


「泉さんが動いたか……まあそうだよね、大事なお兄さんに変な虫が付いたら心配するに決まってるよね」


「変な虫って」


「泉さんにとって私はお邪魔虫だからね」


「そんな」


「それで、泉さんは何て? 私の事をどこまで調べたって?」

 凛ちゃんは僕を見ない、ずっと紅葉の木を見つめながら話す。

 僕は凛ちゃんの横顔を見ながら言った。


「僕は騙されてるって……凛ちゃんはメイド喫茶で他の子のお客さんを取る様な人だって」


「ふーーーーん」


「後は、中学の時の凛ちゃんを知っている人に会ったって……」


「…………そか……まあ……あれだけ交友関係が広ければ簡単にたどり着くか……」


「う、嘘だよね? 泉の妹の言ってた事は全部嘘なんだよね? 泉が騙されているんだよね?」

 僕がそう言うと凛ちゃんは一度空を見上げる。何かを考えている様に空を見上げ、そしておもむろに僕を見つめてこう言った。


「どこまで聞いたのか知らないけど…………多分本当だよ」

 僕を見る凛ちゃんは悲しげな、物凄く悲しげな……今まで見た事無い表情をしていた。


 電灯に照らされ悲しげな表情を浮かべ僕を見つめる凛ちゃん……僕はその顔を見て、不謹慎にも物凄く儚げで……とても美しいと思ってしまった。














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