第40話 馬鹿にするな!
「今日くらい早く帰って泉さんとしっかり話しなさい! 今日はうちのお店出禁!」
みかんちゃんにそう言われ僕は一人で下校した。
泉には今日はちょっとだけ寄り道してから帰るとだけメールを送って先に教室を出た、相変わらず泉は友達に囲まれている、そしてやはり僕には目を合わせなかった。
今日は泉と落ち着いて話したいのと、機嫌が悪くてもご飯を作ってくれたお礼にケーキを買って帰ろうと思い、僕は駅前のケーキ屋に寄ってから帰る事にした。
「ヤッホーーー!」
「うわ……」
「うわって何よ!」
「うわああ、丁度良いところにいたなって」
「本当! 私に何か用があった? ひょっとして愛の告白とか? うん、仕方無いな~~良いよ!」
「言ってない言ってない、冗談は顔だけにして」
「酷いな~~真ちゃん、私の一世一代の告白だったのに」
「愛真は昔から一世一代の告白って何度も言ってるだろ」
「だーーかーーらーー全部一世一代の告白なんだってば~~」
「ハイハイ」
「それで真ちゃんは何してるの?」
「ああ、ケーキを買おうって思ってね」
「あれ? 私の誕生日ってまだだけど、忘れちゃった?」
「最初から覚えてない! そうじゃなくてちょっと泉……妹にケーキを買おうと思ってるんだけど、僕どれが良いとかわからないんだよね、だから愛真一緒に選んでくれない?」
「えーーー泉さんにい~~? なんで私がーー」
「頼むよ、最近泉の機嫌が悪くってさーー」
「もう~~、しょうがないな~~よし、じゃあ愛真お姉さんが付き合って上げよう」
「サンキュー、そういえば愛真はなんでここに?」
「あ、私? バイト~~これからクリスマス、お正月、バレンタインって物入りでしょ?」
「へーー偉いなぁ」
愛真といい、みかんちゃんといい偉いよな……
「あ、じゃあ時間無いんじゃ?」
「少し位なら大丈夫、ほらじゃあ行こう!」
「う、腕を組むな! あーーもう相変わらずベタベタと!」
本当小学生の頃から変わらないこの距離感、全然成長してないよなーー愛真は! 胸以外は……
僕は愛真と一緒にケーキ屋に赴く、クッキーをたかられたが、無事美味しそうなケーキを購入し愛真と店前で別れ僕は帰路に着いた。ちなみに愛真は遅刻寸前だと焦りながら走って行った……だから言ったのに……
「まあ、これで、泉の機嫌が良くなってくれれば良いんだけど」
ケーキの入れ物を見つめ、泉の喜ぶ顔を想像しながら道を歩く、家から駅まで数十分の道のり、何を話そうか考えている間に家に到着。
話す事は纏まらなかった……でも最初が肝心だ。まずは笑顔で元気良くと玄関の扉を開けた。
そこにはいつもの様に泉が「お兄様お帰りなさい」と迎えに…………あれ? 誰も居ない……
静まりかえった家……いつも泉が迎えてくれる家……誰も居ない家に一人で入るのって凄く久しぶりな気がした。そして最近泉にそんな目に合わせていたって思うと少し心が痛む。
一刻も早く仲直りしたい、泉と一緒に帰って一緒に食事したい、楽しく過ごしたい。僕はそう思った。
冷蔵庫にケーキを入れリビングで泉を待つ、冷えた家、冷たいソファー、エアコンをつけるも中々暖まらない……なんだろう、なんでこんなに寂しいんだろう。
泉と一緒に暮らす前はいつもこうだったじゃないか、僕は一人には慣れっこだったじゃないか……なんでだ? なんでこんなにも寂しいんだ? なんでこんなにも家が寒いんだ?
辺りがどんどん暗くなる、僕は部屋の明かりも付けずにひたすら泉を待った。
ひょっとして帰って来ない? 遂に泉が怒って出ていってしまった? そんな事まで思い始めたその時、玄関から人の気配が!
良かった、帰ってきた。僕はホッとした、心底ホッとした。
ソファーから立ち上がり、泉を迎えに行こうとしたその時、リビングの扉が開いた。
扉を開けるなり泉が僕を見る、なにやら悲しそうな顔で僕を……そして物凄く低い声で、いつもの泉とは思えない声で言った。
「お兄様……お話しがあります……」
「あ、うん、僕も話しがあるんだ、えっととりあえずお茶を……」
僕がそう言うと泉はリビングの扉をパタリと閉めたそして、僕にとんでもない事を言い始める。
「お兄様……お兄様は……一萬田凛さんに……騙されてます……」
「へ?」
「お兄様は……あの女に騙されてます……」
「え、えええええええ? 何? どういう」
「私この3日間色々調べました、一萬田 凛さんを、彼女を調べました」
「し、調べた?」
「彼女の事を色々調べました……その中学時代の事とか……今働いている所とか……」
「そんな……」
「お兄様! お兄様は……彼女に騙されてます! 彼女はお兄様を利用しようとしてます! いえ既に利用し始めてます!」
「ちょっとちょっと待って、えっと、どういう事なの?」
「彼女がメイド喫茶で働いている事はお兄様もご存知かと思います。お兄様も何度かいかれていると聞きました」
「何度かって……」
「私、お兄様が心配で……友達のつてを使って聞きました。あのお店で働いているシュガーって言う娘から一萬田凛さん、みかんって言う娘について……」
「ええええええ?」
シュガーちゃんて、あの、最初に僕を出迎えた娘だ……
「お店で一番に、一番人気になる為に、その為に色目を使って、時にはその……身体も使って……他の人目当てに来たお客を奪い取っているって、そのシュガーさんも何人も取られたって……」
「そんな馬鹿な……まさかそんな……」
「ごめんなさい……お兄様のプライベートを探る様な事をして……」
「いやえっと……中学の時って言うのは?」
「今日彼女の中学時代の知り合いという方と会って来ました。だいぶ遠方からうちの学校に来たらしいので、中々大変でした……」
「うん、凛ちゃんもそう言ってた、いじめられたのが原因とかって」
「いじめ……そうですか……やはりそう聞いているんですか…………お兄様……いじめていたのは……凛さんです」
「え?」
「中学時代、虐めをして……居られなくなったのは……凛さんです」
「え?」
「酷い虐めをしたそうです、それが原因で逃げる様に……うちの学校に……って」
「ま、まさか……そんな」
「お兄様……お兄様は騙されてます。お願いです! どうか、あの人とは、もうこれ以上関わらないで下さい」
「そんな……でも……」
「お兄様は私の兄なんです、日頃からもっと自覚を持った行動をしてくださいと何度も申し上げました。それにも関わらずあんなハレンチ極まり無いメイド喫茶に入り浸るなんて事をするから……あんな、あんな性悪な人に騙されるんです!」
「ハレンチ……性悪……」
「お兄様は私の兄なんですから、もっとしっかりと」
「うるさい!!」
「……お兄様?」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい! メイドを馬鹿するな! 僕を馬鹿にするな! 僕の友達を……凛ちゃんを馬鹿にするな!!」
「お、お兄様!?」
僕はそう言うと泉押し退けリビングを飛び出た、そしてそのまま家も飛び出た。
そして走った、靴の踵を踏み潰し、がむしゃらに走った。
でも体力皆無の僕……靴もろくに履いていないのにそんな長い時間走れるわけもなく駅近くで限界が来る。
そして思いっきり転んだ、もんどりうって転んだ。
痛い……足も身体も心も全部痛い……あまりの痛みに起き上がれない……
駅前の繁華街、仰向けに寝転ぶ僕、でも誰も助けない、皆僕を避けて行く……
ああ、なんか寒くなってきた……死ぬのかな僕……いいか……このまま死んじゃっても……
そう思った時僕の名前を呼ぶ声が……
「真ちゃん? 真ちゃん! ど、どうしたの! ケーキ買って帰ったんじゃないの?」
「愛真?」
多分バイトを終えた愛真が僕に話しかけて来た……とりあえず……パンツの色はブルーだった。
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