第11話 4年前の記憶
「えっと、愛真は何処に行くの?」
「え~~しんちゃんの家に決まってるじゃない」
「僕の家?」
「うん、帰ってきたらデートしてくれるって言ったじゃない」
「はああああああ? デ、デート?」
「お兄様?」
泉が僕をジロリと睨む。
「え、いや、言ってない、言ってないよ」
僕は泉を見て首を振る、本当に言って無いから記憶に無いから。
「えーーー、帰って来たら何処でも食べに付き合うよって言ってくれたじゃん」
「え、そ、そうだっけ、言ったかそんな事、あ、でもっ言ったとしてそれってデートって意味じゃないじゃんか!」
「あはははは、バレたか、それで~~しんちゃんはデート?」
チラリと泉を見ながらニヤけた表情で愛真は僕にそう言った。
「は? え? で、で、デート、いや、えっと……」
そう言われ僕は慌てて泉の顔を見る、泉は僕を見てキョトンとしている。えっと……誤解されてるのに、平気なのかな?
「ち、違う、買い物、買い物に付き合ってるんだよ、ほ、本当に」
「ふーーん、そっか、じゃあまあ残念だけど、今日の所は妹さんにしんちゃんを譲りますか、妹……い、も、う、と、さん、だから……ね」
「何故3回も妹って、そもそも譲るって……僕は物かよ……」
「あら、そうですか、ありがとうございます、では行きましょうお兄様」
そう言って僕の腕に絡み付く泉、さっきよりもより強く、ちょ、ちょっと、ひ、肘が、胸に、泉の胸に僕の肘が…………ああ、柔らかい……
泉が僕の腕を引っ張る様に歩き出す、僕は泉に引きずられる様に、散歩に連れていかれる犬の様に歩かされた、すると……
「さいしん!」
泉に引っ張られ行こうとした時、愛真が再び小学校の時のあだ名で僕を呼ぶ。
僕がその声に呼ばれ振り返ると、愛真は僕に向かって敬礼をした。
「佐々木 愛真、無事日本に帰って参りました!」
その敬礼、その笑顔、僕ははっきりと思い出す。愛真が親の仕事の都合でイギリスに行く時と全く同じ姿だった事を、いや、姿はすっかり変わっていた、そしてあの時と違い今日の愛真の目には涙は無かった。
『佐々木 愛真……イギリスに行ってきます!』
イギリスに旅立つ前日、僕の前にフラッと現れそう言って笑顔で敬礼をした、その時の愛真の目には涙が溢れていた。
4年前を思い出す、幼い顔立ちの愛真、短髪でボーイッシュだったあの頃の面影は全く無い、びっくりするほどに、可愛くなって僕の前に現れた、いや、帰ってきた。
「お帰り……愛真」
僕は愛真にそう言った、僕の幼なじみ、小学校の時の唯一無二の友達に……
「お兄様……」
「あ、じゃあまたね、さいしん、ううん、しんちゃん」
「あ、うん……また……」
短めのスカートをたなびかせ、愛真は振り返り走って行った。そう、あの腕を横に振る独特な走り方、愛真だ、愛真が帰って来たんだ。
僕は肘に伝わる泉の胸の感触も忘れじっと愛真を見続けた、愛真が見えなくなるまでずっと……
「お兄様……」
「あ、ごめん、行こうか」
僕がそう言うと泉は一瞬物凄く寂しそうな顔をし、すぐにいつも通りの笑顔に戻る。
「はい……」
そう言って一緒に歩き出す、先ほど強く抱かれた腕の強さはかなり弱まっていた。
しばらく無言で泉と歩く、ううう、何を話して良いか……だいぶ一緒にいるんだけど泉と話すのは、まだまだ緊張する。
僕が何か話題をと考えている時、泉が僕に呟いた。
「先ほどの……愛真さん、お兄様の大事な人なんですね……」
大事……うーーん、大事って言えばそうなのかな? 小学校の時の唯一の友達だし……
僕は愛真がいなくなるって聞いて、中学受験を決めた、自分を変える為に、愛真のいない環境で一から、そして愛真が帰って来た時安心して貰える為に……
「大事……かな? あはははは、でも僕忘れてたよ、気付かなかったよ、最低だね、向こうは……愛真は僕の事をちゃんと覚えて、気付いてくれたのに」
「お兄様は最低なんかじゃありません……女の子は変わるから……」
そう言われ僕は少しカチンと来た、泉は僕の何を知ってるんだって、今まで眼中に無かった癖に、僕が兄だからって理由だけでそう決めつける事に……だから僕は少し泉に意地悪な事を言った、言ってしまった。
「僕が最低かどうかなんて、泉が僕の何を知ってるって言うの?」
どうせ僕が泉の欲しがっていた兄だから偶然兄貴になったから、そう言ってるんだろ、知らない癖に、僕の事なんて認識してなかった癖に、そして……覚えてない癖に……
「お兄様は変わっていません、だから彼女も気付いたんです……ずっと変わらない、小学生の時初めて会った時から、受験の時からお兄様はずっと変わらないでいるから……」
「え? 受験の時って……泉……僕の事……あの時の事、覚えてたの?!」
「勿論ですよお兄様」
そう言ってニコリと笑う泉、ビックリした、まさか……覚えてくれてたとは……
「そ、そうなんだ……」
僕はもうその言葉だけで舞い上がった、4年近く前の僕を覚えてくれていた。そんな女子が二人も、それだけで嬉しかった。変わらなくちゃと思っていた、でも変われなかった、決して誉め言葉ではないのかも知れない、変わってないと言うのは、でも僕を僕の事を認識してくれている、僕の存在を認識してくれているという事実だけで僕は嬉しかった。しかも泉がクラスカースト頂点の泉が、まさか僕を、4年近く前の事を覚えてくれていた……僕を認識していてくれてたなんて。
「お兄様が、真君が私の兄妹に、家族になるって聞いて初めビックリしたの、でも、あれ以来殆ど喋って無かったのに不思議と嫌な感情は無かった、寧ろワクワクしてたの、真君ならって……」
「そ、そうなんだ……」
なんだ、これ、なんだろう、凄く嬉しい、兄だからじゃない、兄になったからじゃなく、僕だからって言われる事が最高に嬉しかった。
「思ってた通りの人、初めて会った時から、だからお兄様変わらなくて良いの、ううん、そのままでいて欲しい、私のお兄様は今は真君だけだから」
「泉……」
「さあ! お兄様、早く行きましょう、今日は私のご褒美なんですから、お買い物にたっぷりと付き合って貰いますからね~~」
いつも通りの満面の笑みで僕を見つめる泉、物凄く可愛い……可愛い可愛い僕の妹。
「ああ、うん、えっと、ところで、何を買いに行くの?」
「下着ですわお兄様、お兄様の好きな物を選んでくださいね」
「え、…………ええええええええええええええええええええええええええええ!!」
「さあ、早く~~、早く行きましょうお兄様!」
「ちょ、ちょっと待って、泉、無理、無理だって、無理だよおおおおおおおお」
絡めていた腕が再び強く抱かれる、僕は散歩嫌いな犬の様にズルズルと泉に引きずられていった。
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