第49話 地下17階の秘密

 だが、それ以上のおかしな点はない。だが、時限爆弾のケースもある。気を抜いてはならない。

 カナレと俺はゆっくりと歩くが、狐の罠らしきものはなかった。

 俺とカナレは部屋を出て、下の階に行く。

 地下16階の部屋に通じる扉のノブをカナレがゆっくりと開ける。

 中は真っ暗だ。

 二人で、慎重に入るが、入ったところは廊下だった。

 地下15階までは実験室のようになっており、ひとつの広い部屋だったが、ここはまた部屋がいくつもある階になっている。

 その中のひとつの部屋に入ってみる。すると、隣との部屋にガラスが嵌め込んであり、隣の部屋が見えるようになっていた。

 隣の部屋は警察の取調室のようだが、違っているのは机や椅子がなく、単なる部屋になっている点だ。

 部屋の広さも四畳半ぐらいだ。

 隣の部屋は何もないが、反対にこちらの部屋には、様々な装置が並んでいる。

 計測器を見ると酸素濃度計とか、ガス濃度計とか書かれている。

 スイッチも赤と緑のスイッチやその動作状態を示すのだろうか、ランプが並んでいるが、電気がない今では、その装置が動作している様子はない。

 机の上には、書類があり中身を見てみると、「VX」とか「サリン」とか書かれた書類があった。

 どうやらこの部屋と隣の部屋は、動物を使った毒ガスの実験室のようだ。


 俺とカナレは別の部屋に入ってみるが、そこも同じような作りになった部屋だった。

 どうやら、上の階で作った毒ガスを使って、動物実験をする階になっている。

 だが、それ以上の情報も得られなかったし、罠もなかったので、更に下の階に進む事にする。

 また、階段を1階降りて、地下17階に来た。

 カナレが同じように扉のノブを回すと、また廊下があり、その両側に部屋が並んでいる。

 作りは上の地下16階と同じだ。

 一番手前の部屋に入ってみるが、同じように毒ガス実験を行うような部屋になっている。

 奥の部屋まで見てみるが、やはり同じだった。

「カナレ、どうやらここも上の階と同じだ」

 カナレに念話でそう伝えた瞬間、「シュー」と音がした。

 頭がクラクラしてきた。

「カナレ、何だか変だ」

「なんだか空気がなくなってきています。空気を抜かれているのかもしれません」

 急いで階段室に出る扉のところに来たが、扉が開かない。

「くそっ、ロックされた」

 そう言っている間にも頭がクラクラしてくる度合いは大きくなる。

 思わずその場に蹲る。

「ご主人さま」

 カナレが俺にキスをしてきて、空気を送り込んでくれるが、このままだとカナレも空気がなくなって苦しいハズだ。

「ご主人さま、しばらく我慢して下さい。テラちゃん、どうにかして」

「私に任せなさい」

 女神さまが、カナレと身体を入れ替える。

「フレア!」

 女神さまが右手を出すと、その先から眩しいばかりの炎が扉に向かう。すると扉が暑い日のソフトクリームのように溶けだした。

 ほんの数秒で、扉が溶け穴が開くと新鮮な空気が流れ込んできて、頭のクラクラは治まってきた。

「ふう、ふう」

「ご主人さま、ご気分はいかがですか?」

「女神さまですか?ええ、良くなりました」

「女神さまだなんて、そんな他人の呼び方は嫌。ちゃんと、『テラちゃん』と呼んで下さい」

「…、えっと、テラちゃん」

「わーい、ありがとうございます」

「テラちゃん、もういいでしょう。私の身体を返して下さい。この先も暗いでしょうから、猫目の私の方がいいと思います」

「もう、しょうがないわね」

「ふう、やっと戻してくれた」

 ひとつの身体に二人の精神があるのは、ほんとにややこしい。


「さっきの毒ガスの部屋もそうだが、部屋の空気を抜かれてもカナレは以外と平気だったな。それも防御の能力のおかげなのか?」

「いえ、違います。実は私…」

「カナレは空気を必要としないの。つまり、身体は死体ということね」

「テラちゃん!」

「いつかはバレる事だわ。ここでご主人さまに知って貰った方がいいわ」

「…」

 カナレは黙った。

「だから私も、この身体に憑依できている」

「カナレは、死んでいるという事ですか?」

「もともと、この子は猫の時に死んでいるわ。それを私が人間の形にしただけ。生きている身体は、他の身体に変化できないもの。

 なので、カナレは生きている人の生命エネルギーはとっても栄養になるわ。だから、ご主人さまの血を吸う事で能力が増えた。それはキスでも同じ。ご主人さまはカナレとキスをすることで、ちょっと疲れませんでした?」

「たしかに、ちょっとした虚脱感が…」

「それはカナレがご主人さまの生命エネルギーを吸っていたから」

「カナレ、言ってくれればもっとたくさんのエネルギーを与える事ができたのに」

「私が人の生命エネルギーを吸っている事が分かれば、ご主人さまに嫌われると思って…」

「何を言っているんだ。そんな事はない。俺のすべての生命エネルギーを吸って貰っても構わないさ」

「ご主人さま、今までと同じように一緒に居て貰ってもいいのですか?」

「もちろんだとも、これからも一緒だ」

 カナレは大きな目に涙をいっぱい溜めていたが、その涙が落ちてきた。

 俺は手でその涙を拭ってやる。

「さあ、狐はまだ居る。次の部屋へ行こうか」

「はい。ご主人さま」

 俺とカナレはもうひとつ、下の階段を降りていった。次は地下18階だ。

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