第16話 曇りのち晴れ

 ヨガ男の左ストレートが、容赦無く晴海を襲う! 


「きゃあああああっ!」

「させるかあっ!」


 クラウドの飛び蹴りが、パンチの狙いを逸らし、ヨガ男の左腕が、あらぬ所を打ち抜いた。


「クラウドくん……っ、手を出さないでって、言ったでしょ!」


 一瞬、嬉しそうな表情を見せた晴海。

 だが、さっきまで怒っていた事を思い出し、いきり立つ。

 そんな晴海に、クラウドは困ったような顔を向けて。


「……ごめん。だけど、どんな事を言われたって、女の子を見捨てて逃げるなんて、やっぱりオレにはできないよ」

「……」

「三雲家3つの家訓の1つ、『困っている女性は助けるべし』。小さい頃から親父に言われてるんだ、男なら女の子には優しくしろって。オレもそう思う。ここで逃げたら、男じゃねえ。それをやったら、オレがオレでなくなっちまう」

「クラウドくん……」

「だから、頼む! 後から何言われても、蹴られても踏まれてもいいから、今は黙ってオレに守らせてくれ! いや、もう、むしろ踏んでくれ!」


 それを聞いて晴海は、ぶはっと吹き出した。


「何それー? クラウドくん、それじゃあ、ただの変な人だよー」

「変なのはお互い様だろ、お前は女なのに好戦的すぎるんだよ」


 その時、上空からヨガ男のパンチが襲って来る。

 だが、クラウドの反応なら十分対応可能だ。かわすつもりでギリギリまで引き付ける。 `


「クラウドくん、危ない!」


 だが、晴海に突き飛ばされ、ヨガ男のパンチは晴海に激突する。


「きゃあ!」


 もんどり打って、倒れる晴海。


「夏山さんっ!?」

「クラウドくん……大丈夫? 当たらなかった?」

「オレは大丈夫だよ、夏山さんの方こそ」

「あたしは、肩パンされただけ……、そんなに、痛くは、無かったよ……」


 絞り出すように言いつつ、脂汗を浮かべる晴海。とても平気そうには見えない。


「オレよりも自分の心配をしろよ。何でそう、いつも無茶ばかりするんだ!」

「無茶もお互い様でしょ! だって……だって、あたしだって、戦いたい! クラウドくん1人戦わせて、黙って守られてるなんて嫌だよ!」


 真剣に、本当に真剣に冒険家としての矜持を果たそうとしている。


 そうなのだ、晴海はいつも一生懸命なのだ。


 いつも明るく気丈に振る舞い、そして、無鉄砲なまでの行動力。

 それもこれも本気だからこそ、全力で真っすぐに向かって行けるんだ。


 クラウドは遅かりながらも、晴海の事を分かり得た様な気がする。

 晴海を助け起こそうと、クラウドは手を差し出す。


「わかった。あいつに勝つためだ、一緒に戦おう!」

「うん!」


 晴海はニッコリ微笑み、クラウドの手を掴む。

 はじけるようなその笑顔は、晴海が今まで見せた中でも最高の笑顔だった。


 クラウドと晴海は、揃ってヨガ男に向き直る。


「ほう、いい面構えになったな、ならばワシも本気で相手になろう」


 ヨガ男は体中の関節をゴキゴキ鳴らす。


「一斉攻撃だ。同時に攻撃をするぞ!」

「うん!」


 クラウドと晴海は左右に散り、挟み撃ちの態勢で狙い撃つ。

 クラウドは、ヨガ男の男の急所を渾身の力で殴りつける。

 だが、それさえもまともなダメージを与えられない。


「くそ、ヨガってすげーなっ! オレも習おうかな!」 


 股間を強くしたいらしいクラウド。


 晴海はパチンコで、クルミを発射!

 ビシビシッと、またしてもクラウドに当たる。

 バランスを崩すクラウドに、ヨガ男の蹴りが炸裂!

 鈍い音と共に、弾き飛ぶ。

 だが、クラウドは地面に叩き付けられる寸前に、受け身を取って体勢を立て直す。


「ふう……、コイツのお陰で助かったぜ……」


 蹴りはメガ正宗で防いでいた。


「あいたたた」


 クルミが当たった所を、クラウドは手で押さえる。


「ごめんなさい、痛かった?」

「大丈夫……だけど、どっちにしてもオレに当たるんだな」

「何で、クラウドくんには良く当たるのかなあ?」

「分かんねーけど、それならこうだ!」


 クラウドは敵に向かって突撃すると、跳躍して敵の顔面にメガ正宗を放とうとする。


「夏山さん、オレを撃てっ!」

「えっ? う、うん!」


 晴海は言われた通りに、クラウドを狙う。


「これで、どうだっ!」


 メガ正宗を空振りし、弾道から身を避ける。弾丸はヨガ男の眼球に炸裂した! 


「ぐおおおおおっ!」

「よっしゃー! いくらヨガでも、目ん玉までは鍛えらんねーだろ!」


 だが、苦し紛れに突っ込んで来た男は、晴海の右足を掴む。

 晴海を振り上げ、頭から地面に投げ飛ばした!


「きゃあああああ!」


 このまま激突したら、大ケガどころか命が危ない。

 だが、クラウドの超反応。晴海は絶対に助けるっ!


「インディコーーーーーっ!!」


 クラウドはスライディングしながら、落下する晴海を地面すれすれで受け止め、砂ぼこりに身を塗れさせながら、晴海をかばった。


「大丈夫か、ケガはないか?」

「う、うん……。クラウドくん、今あたしをインディって……?」


 敵の方に目を向けると、うつ伏せ状態から体を反った、水魚のポーズで精神集中をしていたかと思うと、男は何事も無かったように構えを整えている。

 もしかして、自力でダメージを回復したのか!? 


「くそ、打つ手無しなのか……?」

「あんなに、体が柔らかいんじゃ関節技も効きそうにないしね」


 関節技? そういえば打撃ばかりで、他は考えた事が無かったな……、そうだ!


 クラウドは、ヨガ男に猛然とダッシュする。


「夏山さん、裸踊りでもなんでもいいから、あいつの気を引き付けてくれ!」

「まかせといて!」

「え!? 裸踊りするの?」


 自分で頼んでおいて、びっくりするクラウド。


「裸踊りはしないよ!」

「わかった、まかせたぜ!」


 クラウドは、ヨガ男に向かって高く翔ぶ! 


「またジャンプ攻撃か、芸の無い。これで終わりだ!」


 ヨガ男は雷也をほふった、ハイキックを繰り出す。

 すかさず晴海は、手元に忍ばせていた物のスイッチを押す。

 激しい閃光が、ヨガ男の網膜を焼いた!

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