第24話 作曲家、干される。

「ッッ……」


 見られた……

うだつの上がらないビンボー作曲家だってコトが、ユーヤ君にバレちまった……



『会いたいなぁ、石神先生に……

どんな人なんだろう? きっと素敵な人に違いない……』



「ハァ、……頭、イテ……」


 後悔させちゃっただろな。

耳の穴かっぽじって聴いてた憧れの作曲家センセーが、

こーんなボロアパ住んでる冴えねぇチャラジジィだったとか、

完璧、世紀末で断末魔の阿鼻叫喚でしょ。


「頭、イテ、っつの……」


 いや、絶望で頭カチ割れそになってんのはオレの方だっつぅオチ。



「知られたく、無かった……」



 憧れの石神センセでいたかった。

ソレがオレじゃないって現実でも良かった。

将来有望で輝かしい未来が待ってるユーヤ君の中では、英雄みたいに輝いていたかった。

ソレくらいオレの現実は、使い古されたティーパックみてぇなもんで、

出がらし何だよ、今のオレは。……全部、全部、



「絶対 知られたく無かった!!」



オレ自身が居た堪れなかった。だから突き飛ばした。

熱で赤くなった手。この手が、ユーヤ君を傷つけた……



(終わりだ、全部全部、)



 いや、最初から、



「オレは終わってたんだ……」



 そうして絶望の淵でオレは眠りにつきましたとさ。

つか、意識を失ったってのが早い話。



*



 そうして長い長い眠りの先には、ほっといても目が覚めんだけども、

今が いつなのかサッパリ分からなくて、ただ無性に腹が減ってて、ケータイを手に取ってから知るんだ。


 丸2日 寝てたってコト。



「ャ、ベ……」



 プロデューサーから着信 山積み。一気に頭 冴え渡る。

慌てて電話だよ!! 今が早朝とか どーでもイイよ!!


「もしもし、石神ですけど!」

「ぁぁ、石神チャン? おはよぉ」

「オハヨゴザイマス! あの、スンマセン!! ちっと、体調崩してダウンしてて、その、」

「あぁっそぉ。大変だったねぇ、大丈夫?」

「はい! もぉスッカリ! ぁの、音源ですけど、」

「あぁ、平気平気、大丈夫」

「ホントっスか!?」


「あぁ、他の人に依頼してチャッチャと上げて貰ったから」


「……へ?」


 空耳だと信じたい。いや、コレも夢の延長線上だと思いたい。

イヤヤ、そぉゆぅコトにしとこぉよ、病み上がりぃなオレの為にも。


「イヤさぁ、新人アイドルの子もね、今回の作曲家の方が歌いやすそぉって言うんだよ」

「はぁ……」

「勿論、石神チャンの才能に比べたらペェペェだけどさ、

何てったって、新米作曲家だから。でもねぇ、そこが却ってイイってのもある。

初々しいってのかな、あるでしょ、そうゆうの。プロの石神チャンなら分かるよねぇ?」

「はぁ……」

「揃々、石神チャンも若手に道 譲ってやる立場になったのかもねぇ」

「はぁ、」

「まぁ、そうゆう事なんで、他に来てる仕事ってのをさ、頑張ってな、石神チャン!」

「……そ、ですね。はい、」


 ってコトで、ご愁傷様。

オレは切れた電話をジィーーっと見つめる。ただ只管にね。



「第一線に立つ前に、お譲り斜線に移動ってか」


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