第18話 作曲家、頑張れない。

「ぅあぁぁぁぁ、進まねぇ……」


 優雅な朝食 食って、ユーヤ君をガッコに行かせて、オレは部屋に戻って作曲活動。

って、好い加減〆切 迫ってんのに1曲も書き上がってないっつぅ最悪の修羅場。

頭ん中は飽和しちゃってて、音符の1つも浮かばない。



「石神センセイ、シッカリしろや……」



 ユーヤ君が恋する石神センセイは、

職業をリーマンだと偽り、ジャージ姿でボロアパに住み着いているんです。

クズ曲1つ上げられずに腐っとるワケです。


(――もう1度、注目を浴びたいと思った。

続けていれば、またオレの曲を見つけてくれる 偉い人に出会えると思った。

だから、その日暮しも覚悟して、オレは不得意なアイドル曲に精魂 注いでるんだ。

でも……)



『会いたいなぁ、石神先生に……

どんな人なんだろう? きっと素敵な人に違いない……』



(あんな風に羨望されて、ソレを直に聞いちゃうと重いってぇか……

期待を裏切らないイイ曲を書かなきゃならないって、そんなプレッシャーが先行しだした)


 知らなきゃ良かったんだよ。

結局の所、鳴かず飛ばず、可愛いアイドルが歌ってるから売れてるってだけの体裁が楽だったんだ。だから、好き勝手にシャラってられたんだ。

ソレが、たった1人でもオレの曲に聴覚 研ぎ澄ましてる何て、ソレも未来の音楽家にだよ?

そんなコト知っちゃったら、意識しすぎて浮かぶもんも浮かばない。


「ダセェ……」


(こんな打たれ弱くて、どーやったら脚光 浴びれるって?)


 今の生活は、オレにピッタリだったってコト。



 Piririririri……



 オレのケー番 知ってんのは、実家か仕事関係。

こんな遣り込められた生活してっと友達と会う気も失っから、交友関係は皆無だわ。

ンじゃ誰かってぇと、プロデューサーだよね。


「えーっと、ハイハイ。石神っス」

「あぁ、石神チャン? 倉敷だけど、曲はどうよ? 揃々サンプル送って貰いたいんだけど?」


 マズイ。全く出来てない。つか、手つかず状態。


「ぇ、え~~っとハイハイ。ちょっと立て込んでましてぇ、」

「え? 珍しいねぇ? 他から依頼でも入ったの?」

「ぇ、っと、まぁ……ええ、まぁ、」

「へぇ、スゴイじゃん。でも、ウチの仕事に支障とか無い感じだよねぇ?」

「そりゃ勿論!」

「そ。じゃぁ、近日中に頼むよ。仮歌の手配は済んでるからさ」

「ハイハイ。リョーカイしましたぁ。ンじゃ、またぁ」



  Pi……



 電話を切って、オレは慌ててパソコン画面と睨み合う。


「ヤバイヤバイ、ヤッバイヤッバイ! どーすんだよ、どーすんだっけ!?

一応 構想はあったじゃねぇの、その辺ブッ込んで、外堀り固めて……って、」



『一見シャラララってますけど、内容は緻密で繊細な上に成り立っているんです!』



(勘弁しろよぉ、単にシャラララってるだけで、そんな お上品な成り立ちとかねんだから、

ホント、ノリだけで書いてんだから、オレに才能なんて元々……)



「――無いんだからさ、」



 頭イタイ頭イタイ。昨日の寝不足が響いてる。


(コレ落したら、アッちゅー間に他のヤツに仕事取られる。そぉゆぅ業界。

オレの代わり何て星の数程いる。ンで、誰にも気づかれずに消えて行く……)


「売れ線の、音、メロディー、旋律、リズム、テンポ……

アイドルが歌えるような、難易度 低めの、ファンが喜んで合いの手いれるような……」



『才能、使い切っちゃったんじゃん? あのCMで』



「うるせぇ、黙れ、」



『俺、弟子入りしたくてM大に入ったのに……』



「 や め ろ !! 」


 頭イタイ。

両手で頭抱えて金髪かき毟っても、音符は出てこない。

いつもなら お遊びみたいに出来上がるメロディーが聴こえてこない。



 オレは椅子から滑り落ちる。

仰向けに寝転がって見上げる襤褸アパの天井がグルグルグル旋回しとる。


(アレぇ……? もしかして、熱とかねぇか? オレってば……)


 ココ数年、体調なんか崩したコトねぇから救急箱が何処だとかも思い出せねぇよ。

そもそも体温計なんてもん、常備してたっけ?


「ぃゃ、寝てる暇ねぇし、オレ……」


 ムリヤリ起き上がろうとしたけども、ダメだ、

引力? 重力? 体が鉛みてぇに重い。



(ガキの頃から そうだった。追い込まれると熱出す体質、治ってねぇ……)



落。




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