第14話

 オレは いつも通りヘラヘラっと笑って、物分りのイイ大人ぶる。


「今日も天気イイねぇ。コレから帰り?」

「は、はいっ、」

「そっか。つか、ユーヤ君は?」

「ま、まだ寝てて、」

「そっか。気ぃ付けて帰ってね!」

「は、はいっ、」

「バイバーイ!」

「さ、さようならっ、」


 真奈チャンは何度も振り返り、ペコペコと頭を下げて小走りで帰ってった。


(ヤルだけやって見送りもせんとは、けしからんクソガキだ)


 真奈チャンはドアを開けっぱなしたまま閉めるのも忘れる程 取り乱したってのに、

こーゆー時こそ男がフォローするもんなのに、

あぁユーヤ君、キミってヤツぁ、オレに並ぶ下衆ですかぁ!?



「ユーヤ君、ユーヤ君!」



 オレは玄関に顔を突っ込み、寝ているらしいユーヤ君を呼び立てる。

無理矢理にでも起こして、せめて施錠くらいさせてやろぉって、オレの親切心も他所にユーヤ君は返事もしやせん。


(つったく、もぉ!!)


 こぉなったら強引に家宅不法してやるぜ。

オレはサンダル脱ぎ散らかして玄関に上がり込む。ズカズカと。


「ユーヤ君、ユーヤ君、玄関の鍵ぃ! 寝てねぇで ちゃんと閉め――」


 喚くオレの声に、ベッドからムクリと起き上がるユーヤ君ったら もぉ、



(ミロのビーナスですかぁ!?)



 上半身 裸だよ! 多分 下半身も産まれたてだよ!

布団で見えないのが不思議と残念だよ!


オレは余りの驚きに腰抜かす。


「ぁぁ……石神サン、おはよぉございますぅ……」

「ぉ、ぉ、ぉ、ぉ、おはよ、」

「アレ? 真奈チャンは?」

「か、か、帰った、今、さっき、」

「そぉですかぁ……ヤバ、起きれなかったぁ……」


 目ぇゴシゴシしてるよ~~カワイイよ~~

オレ、何処 見たらイイんだよぉ~~全部 見たいよ~~



「で、何で石神サンが?」



 頭ん中 覚醒したらしいユーヤ君は小首を傾げる。

オレは勇んで入って来たものの、色々 遣る瀬無い気持ちで立ち上がれずにいるから格好悪い。


「げ、玄関、ドア、鍵、」

「鍵? ……あぁ、そっか。オートロックじゃなかったんだっけ。

ソレを教えに来てくれたんですか? 石神サンって本当に親切ですね!」

「……」


 なに感動してんだよ!? お前の世間知らず、どんだけ果てしねぇんだよ!?

金持ちボンボンって、どちら様も そんなにバカなのか!?

違うだろ!! お父サンと お母サンの顔が見たいわ、バカヤロー!!


 ユーヤ君は掛け布団を頭から被って立ち上がると、タンスの中から着る物を引っ張り出し、オレの視界から逃れるように台所の壁に身を隠す。


「石神サン、今日のご予定は?」

「え!? 何が!? 何で!?」

「俺、オナカ空いちゃって。

1人で食べるの味気ないから、一緒にどうかと思って。俺、料理は得意なんですよ」


 知ってる。


「あ。でも、普通 サラリーマンって言ったら朝から出勤ってイメージありますけど、

石神サンは違うんですか?」

「え!? ぁ、ああ、そのぉ……色んなタイプのリーマンがいるんだよねぇ、」

「へぇ、そうなんだ! じゃぁ大丈夫ですか?」


 スッカリ服に着替えたユーヤ君は、台所からヒョイと顔を出す。

ホント、悪びれる様子もナイから、オレはつい頷いてしまう。


「まぁ……そこそこ大丈夫、かな、」

「良かった! じゃぁ、直ぐ作りますから!」


 ユーヤ君はエプロン付けて、早速 準備に取りかかる。

オレは腰を摩りながら、台所作業中のユーヤ君を見る。


(何つぅ新婚トーク……こんなカワイイ奥サンいたら、オレの毎日 華やぐんだろなぁ……

つっても、稼ぎもねぇんじゃ結婚なんて夢のまた夢だ)


 いつまで こんな金にならねぇ夢で穀潰す気でいるんだか、オレは。

好い加減 実家に帰って、農家手伝った方が親孝行ってもんかね?

つっても、長男夫婦がいるからオレの居場所はナイんだけど。

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