第3話

 密かにテンション上がる。でも、口に出せないオレがいる。

彼女の手によって片付けられて行く日用品は どれも高価な物ばかりで、未来はきっと華々しんだろう。みたいな……

そんな感傷が、まぁヒッソリと心の中に芽生えてしまったりして。


(M音大っちゃぁ、その手の業界じゃエリート大学だ。

そこに通って そこそこの成績で卒業した先輩が、泣かず飛ばずの音楽でメシ食らってる何て知ったら、この子、やる気 無くしちまうかもなぁ)


「将来はピアニスト?」

「出来れば」

「イイねぇ、頑張ってね」

「はい! 石神サンは?」

「ぇ?」


 彼女がオレを見る。真っ直ぐに。


「……サラ、リーマン。――しがない。ホント、しがない感じの」

「しがない何て そんな。

初対面にも関わらず引越し何て面倒な事を手伝ってくれる石神サンだから、

きっと細やかな お仕事をなさってるんでしょうね。尊敬します」

「ぁ、、いや、ハハハ! 照れますねぇ、ハハ!」


 ただ夢ばかり、煩悩ばかりを追っ駆けて生きているオレに、細やかさ何て皆無なんだけど。

彼女の力強い視線に1度は目を反らしたオレだけど、

上手い事フォローされてスッカリ顔を挙げちまうんだから、存外ゲンキン者だ。


 そうして 暫くの肉体労働の後、部屋は大分 片付いて、彼女はペコリと頭を下げた。


「コレだけ片付けば後は自分で何とかなりそうです。石神サン、ありがとうございます!」

「いえいえ」

「本当なら引越し蕎麦でも、って言いたいんですけど……

キッチンは今日中に片付きそうにないから、また機会があれば その時でも」


 彼女は上手いコトを言う。

ひとネタ加える気遣いがさぁ、何かムラムラ来るじゃんか。

つか、社交辞令でしょ、コレ。


「キッチンなら、ウチの使う? 何ちゃってアハハハ!」


 ジョークだって、ジョーク。

本気で言ったら、オレ、危ない人でしょ。本気だけど。

だけど彼女は予想外にも頷く。


「えぇ!? 良いんですか!? お蕎麦なら買ってあるんですよ!

まさか、キッチンまで貸してくれる何て、石神サンって何て良い人なんだろう!」

「ぇ? ……ぁ、ああ、ええ。まぁ、そのぉ……別にイイですけどぉ……」


 何だ、この子!? オレより危ないんじゃねぇの!?


(ハタチって言ったよな、立派な大人だよな!?

オレの顔のどっかに安全マークでも付いてるのか!?)


 さて、どーしたモンか。

こぉまでトントン拍子だと却って疑わしい展開。つつもたせ?

オレが困惑してる間に、彼女は段ボールの中から高級乾麺 取り出すし。

どうやら本気でオレんちの台所で蕎麦 作る気でいるし。


「こう見えて料理は得意なんで、安心してください!」

「ぁ、ああ、ハハハ……」


 あるんだろぉか? こんな少女マンガのヒロインみたいな子が、現実に。

見た目ヨシ性格ヨシ器量ヨシ、何て、当然カレシいるだろ。だったらマズイだろ、


 スニーカーを履き、オレんちへ行く準備万端な彼女に聞く。


「中都サン、恋人は?」

「まぁ、程々に」

「ぇ?」

「アハハハハ。遊び人ってわけじゃ無いですよ?

仲良くしてる子がチョイチョイいるってだけで、アハハハハ」

「……」



 やったー!! 遊び人!!



(イケる! ヤレる! 神様ぁぁぁ今日はイイ日だねぇ!!)



 ちょっと気を緩めたらスキップしちゃいそぉだよ、オレ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る