第36話 JAGUAR

 子供の頃、ブランドのスニーカーが流行っていた。

 欲しいとは思わなかった。

 ナイキ・アシックス・プーマ…人気があったのは、そんなブランドだったと思う。

 自分には縁の無い物だと思っていた。

 貧乏だったし、特にスポーツをしていたわけでもない。


 ある日、母親が僕に箱を差し出した。

 スニーカーだった。

 メーカー名は『JAGUAR』

『PUMA』に似せた柄のメーカーだった。


 僕は翌日から、そのスニーカーを履いて登校した。

 正直、嫌だった。

 僕のような立場の人間が、流行物を身に付けるのは許されないことだから…


「桜雪が新しい靴を履いてきた」

『PUMA』と思われて、イジメに集まってきたのだ。


「2流のスニーカーだ、偽物だ」

 からかわれただけで終わった。


 ホッとした。


 母親は息子に皆と同じ物を買い与えたかった。

 息子はソレが偽ブランドで安心した。


 そんな親子の話

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