9月5日(水)選別ゲーム3・地獄のドロケイ
第19話 ペナルティー
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9月5日(水)午前0時42分
政府選別ゲーム課の織田は、部下の清水と共に集会場からとある場所に向かっていた。
大勢の武装した選別ゲーム関係者が2人を囲むようにして山の中を下って行く。
選別ゲーム課には、現在5つの部隊が存在する。織田は、その部隊の1つで隊長を任されている。
ちなみに清水は、織田の部隊の中でナンバー2に位置している。つまりは、副隊長にあたるのだ。
部隊は100人以上で構成される。第1回目の選別ゲームにあたる今回は、織田の部隊が月柳村を担当することになったのだ。
「近藤と氷室からの呼び出しらしいですが、何かトラブルでもあったんですかね?」
「さあな。だが、直接オレたちを呼び出す程のことだ。問題があったに違いないだろう」
織田が清水に答えた。
月柳村の村人の前では、丁寧な口調を心掛けている織田だが、部下の清水と話す際にはやや砕けた話し方だ。
織田と清水の年齢はどちらも30代前半。
2人よりも年齢が高い人は数多くいるが、選別ゲーム課は実力主義なので、織田も清水も若くして重要な役割であるゲームのコントロール役に抜擢された。
頭が良くないとゲームをコントロールすることはできない。ゆえに2人は優秀なのだ。
歩き続けること数分。
織田と清水は、村と村の外を隔てるフェンスの前に来ていた。フェンスの外で門番をしていた男に許可を取り、フェンスを開く。
村の周りをぐるりと取り囲んでいるこのフェンスだが、入り口も出口もここ1箇所しかない。
なぜ1箇所しかないのか。それは、対象者である月柳村の村人を逃がさないためだ。
もし村人が逃げようとした場合、2メートル以上あるフェンスの上から射殺することも国から許されている。
「あの建物です」
清水が白色のプレハブを指差した。建てるのにあまり時間を必要としない小さなものだ。
「お疲れ様です」
織田がプレハブのドアを開くと、中にいた細身の男、氷室が頭を下げた。
氷室の隣にあるベットの上には体格の良い男、近藤の姿もあった。肩と胸のあたりに包帯を巻いていて血が滲んでいる。
「織田さん、この態勢のままで申し訳ないです」
近藤が枕から頭を少しだけ浮かせて織田に謝罪した。
「気にするな。それよりその怪我は大丈夫なのか?」
「動かなければ大丈夫です。それで、今日中に病院に行きたいのですが。すみません、こんな大事な時に」
「その怪我なら仕方ないさ。こっちのことは心配しなくていい。横になってろ」
「すみません」
近藤が頭を枕に預けて目を閉じた。
「氷室、それで話というのはこのことか?」
近藤が目を閉じたことを確認すると、一呼吸間を空けてから織田が呼び出された理由を訊いた。
清水は、織田の斜め後ろに立ち、氷室の顔を真っ直ぐ見ている。
織田も清水も正午から行われる第3の選別ゲームの準備で忙しいのだ。貴重な時間をわざわざ割いてまで足を運んでいる。
正直な話、怪我ごときでいちいち呼ばれていたのでは仕事が進まない。
「はい。近藤のこの怪我なんですけど、これは村人の岩渕清と今野健三に襲われたものなんです」
「なんだと」
対象者の反乱とあっては話が変わってくる。すぐに対策の案を出さなくてはならない。
「氷室、状況を詳しく説明しなさい」
清水が強い口調で氷室に指示を出した。
対象者に反撃を許し、ましてや取り逃がしたとなればこの部隊の責任問題に繋がりかねない。
上からゲームを管理できていないと判断されてしまう可能性がある。
「はい。岩渕清と今野健三の監視をしていた自分と近藤は、山の中でナイフを持った2人に襲われました。拳銃で動きを止めようと試みましたが、木に遮られて当てることが出来ず、近藤が自分を庇って——」
氷室が一連の出来事を織田と清水に説明した。
「今回の件は自分の実力不足が招いた結果です。本当に申し訳ありませんでした」
氷室が深く頭を下げた。
「顔を上げろ。すぎてしまったことは仕方がない。これは、ルール説明の際に言わなかったオレのミスでもある。が、しかし、これ以上勝手な真似を許すわけにはいかない。次に反乱があったら容赦なく脱落させることを伝え、岩渕清と今野健三については、次のゲームで何らかのペナルティーを与えることとする。どうだ清水?」
「それがいいかと思います」
意見を求められた清水が織田の考えに肯定した。
「氷室、夜が明けたら近藤を病院に連れて行ってやれ」
「はい。分かりました。ありがとうございます」
「オレと清水は集会場に戻って、岩渕と今野のペナルティーの件も含めてもう1度ゲームのルールを作り直すとするか」
「そうですね」
清水がドアを開き、織田が先に外に出た。
ドアを閉めた清水が歩いていた織田の隣に並ぶ。並ぶといっても清水が織田より前に出ることは絶対にない。
「子供の遊びがデスゲームになるとはな」
何を思ったのか織田が独り言のように呟いた。
清水が反応に困っていると、再び織田が口を開いた。
「単純なゲームが1番怖いとは思わないか?」
「は、はい。次のゲームなんかまさにそうですよね」
「ああ、オレも昔グラウンドや公園でよくやったものだ……ちょうど今ペナルティーの内容も思いついた」
織田が足を止め、胸ポケットから手帳を取り出すと、何やらメモしていく。
「こんなんでどうだ?」
織田はメモをしたページを破り、清水に渡した。
「すごくいいと思います」
メモ紙を読んだ清水が頷いた。
この第3の選別ゲームは、織田が言っていたように子供の遊びでも行われるような非常に簡単なものだ。
しかし、今回の選別ゲームでもっとも多くの脱落者を出すことになる。
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