第7話 小町の気持ち
—1—
9月4日(火)午後12時28分
太陽が真上に上がり、気温も上がってきた。
昼寝をするにも日に当たりながら読書をするにも最適な環境。月柳村は、緑が生い茂っているから空気もおいしい。
しかし、今はそんなことを考えている余裕は1ミリもない。
村のみんなは、宝箱を探しに散っていった。父も母も私に声を掛けてからどこかに行ってしまった。
たった今、人が死んだというのに。
赤の他人が死んだというならそこまで感情が動くことも無いのかもしれないが、今回死んだのは私のおばあちゃんだ。
77年間この村に住んでいたので、村に住むほぼ全員の子供の頃のことを知っているし、面倒だってみてきた。
言ってみれば、おばあちゃんは村の母のような存在だった。
そんな誰からも愛されていたおばあちゃんが死んでしまったというのに。
やはり、人間という生き物は、他人の命より自分の命の方が大切だということか。
まあ、それは分からなくもないが。
「凛花、辛いのは分かるけど今は宝箱を探そうぜ。凛花のおばあちゃんだってこんなところで凛花に死んでほしくはないと思うぞ」
「克也くん、でも……」
克也と小町のペアが心配して声を掛けてくれた。
おばあちゃんが繋いでくれた命。それを無駄にしてはいけない。
頭の中では分かっているのだけれど、どうも体がついてこない。昨日、今日で人の死に直面しすぎた。
ゲームが続けばもっと多くの人が死ぬ瞬間に立ち会うことになるだろう。
それまで私の心は持つだろうか。
「俺も、さ、俺も凛花には死んでほしくないって思ってる。辛いけど、もう少し頑張ってみないか? ごめんな、こんなことしか言えなくて」
克也が足元に目を向ける。
小町がそんな克也のことをどこか悲しそうな目で見ていた。
「ううん、ありがとう。克也くんの言う通りだよね。辛いのはみんな同じ。おばあちゃんの分まで私が生きなきゃ。それに今回のゲームは、私だけの命が懸かってるわけじゃないしね」
「一緒に頑張ろ、凛花」
私の隣に立って話を聞いていた奈緒が、手錠で繋がれていない方の拳を突き出してきた。
その拳に私の拳を合わせる。
「よし、宝箱を見つけて絶対に生き残ろう」
『「おう」』
克也の掛け声に私と奈緒と小町が気合いを入れて腹から声を出した。
今はこうでもして悲しみを紛らせることしかできない。
—2―
9月4日(火)午後12時46分
凛花と奈緒と別れた克也と小町のペアは、宝箱を探すべく村の外れにある学校に向かっていた。
その学校とは、月柳村に唯一ある学校で、現在は中学生までの生徒が通っている。
といっても生徒は、凛花と奈緒と大吾の3人だけだ。
「お兄ちゃんってさ、やっぱり凛花のこと好きなんでしょ?」
「ぶぇっ、ゲホッ、ゲホッ」
今まで何か考えていたのかだんまりだった小町が口を開いた瞬間、克也が吹き出してむせた。
「どうしたんだよ急に」
「いいから答えて」
「分かったよ」
実の妹から放たれる圧に耐えきれず、克也が両手を上げて降参の意を示す。
手錠で繋がれているので、当然小町の右手も一緒に上がった。
「もう! 繋がってるんだから考えてよね」
小町が右手を振り下ろす。
「ごめん」
克也が小町に謝り、やや沈黙を挟むと、克也が口を開いた。
「いつだったかは覚えてないけど、気が付いたら凛花のことを目で追うようになってた。あいつ、まだ中学生で歳は離れてるけどさ、どこか大人っぽい雰囲気があって、でも無邪気に笑う姿が子供っぽくて。高校入って大勢の人を見てきたけど、凛花より魅力がある人はいなかった。やっぱ、高校生が中学生を好きになるってヤバいかな?」
「なんでそれを私に訊くのよ。知らないけどなんかうざい!」
小町が克也の脇腹を突いた。
「なんだよ、いってーな。先に訊いてきたのは小町だろ」
「うるさい!」
小町がもう克也の話は聞きたくないとそっぽを向いた。
「ったくなんなんだよ」
妹の気持ちに気付かない克也だった。
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