第3話 ペアを作れ
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9月3日(月)午後8時30分
政府選別ゲーム課の織田が指定した時間。
集会場の前には、身体が不自由なお年寄りを除いた村民が勢揃いしていた。
「もう大体揃ったんじゃないか? どうしても来てくれって言われたから来たけど、悪いけど明日も仕事なんだ。何も無いなら帰らせてもらうぞ」
たばこの煙をぷはーっと吐いた
しかし、集会場の前に立っている織田の部下である清水は何も言わない。
すると、集会場の中から織田が姿を現した。
「お待たせしました」
織田が集まった人々の顔を見て、何度か頷く。
ここには、50人いた織田の部下の姿は見えない。どこかに移動したようだ。
「月柳村の村民23名中20名ですか。まあいいでしょう」
ここに来れなかった3人の内の1人は、私のおばあちゃんだ。
もう1人は、拳銃で撃たれた浅沼空の祖母である浅沼八重子だ。八重子は足が悪く、歩くのにかなりの時間がかかる。
村長が説明をしに行ったみたいだけど、空の死を含め、なんと話したのだろうか。
最後の1人は、
基本的に引きこもりで、食料や生活必需品が無くなったら家から出てくるといった形だ。昔は普通に外に出ていて村の人とも交流があった。気さくで頭が良かったことを覚えている。
「みなさんに集まって頂いたのは、これから行って頂く選別ゲームについて説明をする為です。ここに来ていない人にも後で伝えて下さい」
「ゲームだなんて、なんでそんな子供がやるようなことを私たちがやらないといけないのさ。そんなことに付き合ってる暇はないよ。ねぇみんな」
村長の妻、工藤フミエが目を細めてそう言い、周囲にも同意を求めた。
何人かが頷いたの確認し、フミエの織田を見る視線がさらに鋭くなった。
「話が進まないからばあさんは1回黙っててくれ。時間がもったいない」
清がたばこを地面に捨て、「いったん聞こうや」と周りに静かにするよう促す。
明日も仕事と言っていたから早く帰りたいのだろう。
「ありがとうございます。それでは、説明の方に移らさせて頂きます。選別ゲームとは、増えた人類を適量まで減らす為に行われる国の新政策です。ゲームは知識、運動能力、運、信頼、ひらめき、生への執着心など、あらゆる分野で優れていなければ残ることは出来ません。また、ゲームに失敗したら脱落となります。対象者は、国民の中から無作為に選出されます。そして、どんな理由があろうと途中棄権は認められておりません」
静かな、それでいて落ち着いた声で淡々と説明していく織田。
説明を聞き、表情を曇らせていく村民たち。
ただでさえ重い空気が、より一層重くなっていく。
「会社は、会社はどうするんだよ。明日も仕事だって人は俺だけじゃないぞ」
清が織田に聞く。
私の父も平日は仕事だ。選別ゲームに参加しなくてはならないというのなら会社にはいけない。そうなってしまうと給料が少なくなり、生活が少し苦しくなる。
というか選別ゲームは、1日で終わるものなのか? どんなゲームをするのかもまだ明らかにされていない。
「今回の選別ゲームは長くても1週間を予定しています。その間、村の外に出ることを禁止します」
「なんだよそれ。ふざけんなよ! そっちの勝手ばっかり押し付けて、こっちの自由は無しか。やってられっかっての」
清が体を反転させ、歩き出した。
私はそれを見て、30分前に起きた光景が鮮明な映像として頭の中に流れた。空が撃たれた瞬間。
短時間で2度もあの悲惨な光景を見たくはない。
「清さん!! ゲームは、強制参加だからゲームをしないという選択肢は無いの。さっきもそうやって空さんが撃たれたんだよ」
「凛花……そうだったのか」
清が足を止めた。
「清、どうやら儂らは選別ゲームとやらをやるしかないようじゃ。これ以上死人を出さないように慎重にならなきゃいかんのじゃ。それで、織田さん、儂らは何のゲームをするんじゃ?」
「1日目は、ゲームというほどのものじゃありませんが————」
織田が村長の茂夫に1枚の紙を渡した。大きさはA4用紙だ。
「そこに先程私が話した選別ゲームについての内容が書かれています。みなさんにも同じものがありますので、清水」
「はい」
織田に指示され、部下の清水がプリントを村民に配っていく。
表面には選別ゲームについてのルール等が記載されていた。
そして裏面には、
【選別ゲーム1:9月4日(火)午前12時までにペアを作れ。ペアが出来たら手錠で繋ぐこと。誰とペアを組むかは自由。しかし、よく考えてペアを組むこと】
と、書かれていた。
「ペア?」
「そうです。みなさんにはペアを作って頂きます。信頼できる家族とペアを組んでもいいですし、友達と組んでも構いません。ペアが出来たら、翌日の午前12時までに集会場までお越しください。ペアの証となる手錠をお渡しします」
織田の説明が終わり、誰とペアを組むかという話し合いで騒がしくなった。
それもそのはず。現在、村民は23人。
ペアを組むということは、全体の人数が偶数でなくてはならない。このままだと、誰か1人がペアを作れないので、ゲームから脱落してしまう。
実際に村民1人の死を目の当たりにしているので、誰もが死にたくないと先を急ぐ。
自分が余り物にならない為に、と。
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