出張編6話 世界昇華計画
照京の過去と現状の話は大まかに把握出来た。
他に確認しておくべきコトはないだろうか? 中将と直接密談出来る機会なんてそうそうないんだ。
…………色々あるな。一つずつ聞いておこう。
「御門一族と御三家には邪眼が顕現する場合があるんですよね? ミコト姫は心龍眼、でしたか。龍眼には色々種類があるみたいですけど、他にはどんな種類の龍眼があるんですか?」
「龍眼は御門一族の専売特許という訳ではないという話だよ。イズルハ人は古来から龍を崇めているからね。不思議な力を持った瞳に様々な龍の名前をつけたという事じゃないかな。他には
朧月? 確か
「朧月セツナってのが兵団の団長ですよね? となると………」
「ああ、朧月セツナは刻龍眼を持つと噂されている。君のオリジナルであるアギトを倒した男だ。」
あの
元の世界のマンガやアニメでセツナって名前の弱キャラなんかいなかったもんね。
「狼眼じゃ刻龍眼には勝てないと考えた方がいいのか………」
中将は首を軽く振ってから答えてくれる。
「そんな事はないと思う。狼眼は殺傷能力に限れば最強の邪眼系能力なのだ。なにせ睨んだだけで人を殺せる凶悪な瞳だ。アギトが朧月セツナに敗れた原因はハッキリしている。
そっか。元の世界と違ってこの世界の戦争は数より質が重要だけど、質が同じなら数がモノをいうよな。
照京由来の邪眼は龍眼、鏡眼、狼眼に………虎眼か。
「御三家の叢雲一族は虎眼を持ってるんですよね。確かえらく短命になるって話の。どんな能力かご存知ですか?」
「分からん。謎に包まれた邪眼能力でね。実在するかどうかさえ怪しいくらいだ。だが叢雲一族は我龍総帥によって全員粛清された。それが事実なら虎眼を持つ者はもういない、という事になる。あまり気にしなくて良いかと思うが………」
「でも万一、生き残りがいたら間違いなく機構軍に走って復讐戦を挑んできますよ。アギトがそうしなかったのが不思議なくらいだ。」
「叢雲宗家の全員は死亡が確認されているそうだ。惜しむらくは
鷺宮永遠………特別営倉のお勉強タイム中にリリスから聞かされた名前だ。
シュリとホタルの件が一段落ついたみたいだから聞いておいて欲しいって言って、百目鬼ラボの件を教えてくれた。………鷺宮トワって………戦闘細胞を開発した女性じゃないか!
「鷺宮さんって戦闘細胞の開発者ですよね? なんだって粛清されたんですか!」
「鷺宮は旧姓でね。叢雲宗家の主と結婚して
………おかげで戦闘細胞の全貌が分からないまま実戦投入されてるってのか。ホントに余計なコトを。
「ミコト姫に代替わりすれば照京も生まれ変わるかもしれませんね。………いっそガリュウ総帥をサクッと
「………冗談でもそんな事を言うものじゃない。イスカもそんな冗談を言っていたが………アスラ部隊にいると物騒なモノの考え方が身に付くようだね。」
司令の場合は冗談じゃないかもしれませんよ? それに中将、順番が逆です。
アスラ部隊にいるから物騒で過激になるんじゃなくて、司令がああだからアスラ部隊が物騒で過激になったんです。
「ハハハッ、司令の薫陶のおかげで物騒な人間に仕上がりました。中将、質問ばっかりで恐縮ですが
「戦闘細胞と抑制細胞のベースになった石だ。イスカの母親である
細胞でありながら金属のように強い、確かに生体金属というべき代物だよな。
それに急死した先代総帥の息子、ギリュウが関わっているだって?
「どういうコトなんです? いや、オレなんかに話していいコトじゃなさそうですけど………」
「イスカやマリカ君が信用している君だ、でなければこんな所で密談などせんよ。イスカが言うには君は面白い発想をするらしいじゃないか。ぜひ意見を聞きたいね。我らの盟友だったギリュウ殿は戦火が激しくなるにつれ考え込むようになった。元々心優しい方でね、争いのない理想郷を創りたいと常々言っていた。」
オレとシュリの桃園ならぬ鳥玄の誓いと違って、ずいぶん高い理想を掲げたモンだな。
でもそういう理想ってだいたい碌なコトにならないのが相場だと思うけどねえ。
「そんな彼はサブリメイションプロジェクトという計画を進めていたようだ。この計画が成功すれば機構軍と同盟軍との戦争も終わる、いや人類から戦争そのものをなくせる………そう言っていた。」
「サブリメイションプロジェクト?………イズルハ語で言えば「昇華計画」ですね。」
「ああ、世界昇華計画、そんな言い方もしていたな。世界を新たなる地平、
いよいよ話がキナ臭くなってきたような気がするが………
「ギリュウさんってヒトは十中八九、殺されましたね。叢雲トワってヒトもその計画に噛んでいたかもしれません。」
「ギリュウ殿は暗殺されたのではないかと私も疑っていた。だがトワ殿が世界昇華計画に関わっていたと考える理由はなにかね?」
「司令の母親であるミレイさんとトワさんが共同で開発した生命の石は………世界を変えたと思いませんか? トワさんが開発した戦闘細胞によって生まれたバイオメタル兵士は、人間そのものを革新させたと言っていい。ミレイさんの開発した抑制細胞のおかげで癌は人類の脅威ではなくなりました。これも人類の革新でしょう。」
「確かにそうだが………」
「世界昇華計画とやらがどんなモノなのかは分かりませんけど、戦争そのものを無くすとか理想や理念だけで出来るでしょうか? オレにはそうは思えないんです。………なにか強制的なシステムとして戦争が出来ない、例えばヒトがヒトを殺せくなる仕組みとかを創ろうとしていたんじゃないでしょうか? どうやったらそんなコトが出来るかなんて想像も出来ませんけど………そう考える理想家の近くに生体工学の天才がいたとなれば………無関係とは思えない。」
シノノメ中将は瞑目して考え込んでいる。オレは黙って中将が口を開くのを待った。
中将は五分近く考えに浸っていたが、ようやく重い口を開いてこう言った。
「……………そう言われれば思いあたるフシがなくもない。ギリュウ殿とトワ殿は照京大の同期生で親しかったと聞いている。ギリュウ殿の友人だった
照京大の百目鬼ラボ………天才科学者二人に身分ある理想家……そして
「オレが信頼する天才ちびっ子が言ってました。「私達は得体の知れないブラックボックスを体に埋め込んで戦争に興じているのよ。絶対なにかが裏にあるわね。」ってね。考えすぎだろうと思っていましたが、彼女が正しかった。なにかあります、絶対に。バイオメタル兵の誕生には………思惑がある。鍵を握っているのは………」
「
確かに。でも今となっては手がかりは百目鬼博士しかいない。
博士はブラックボックスの中身を知らないって話だったけどホントにそうか?
なんにせよ何も知らないってコトはあり得ない。
「後は何かを知っているとすればガリュウ総帥でしょうけど………彼が喋るワケありませんね。トワさんを殺した張本人だ。」
「だろうね………だがカナタ君。世界昇華計画については調べるとしても最優先ではなかろうよ。どんな計画だったにせよ、頓挫した事に間違いはないのだから。」
「………中将の仰る通りですね。頓挫した過去のコトより、オレ達が未来をどう生きるかの方が優先に決まってる。」
中将は優しい笑みを浮かべてオレを促した。
「うむ、その通りだ。………そろそろパーティーに戻ろうか。あまり席を外すのもマズかろうよ。」
そう言って中将は席を立ち、出口へ向かったのでオレも後に続く。
オレ自身のコトもややこしいが、照京のコトもややこしいな。
考えすぎるのはオレの悪いクセだ。
納豆菌と踊るのはもうヤメて、せっかくパーティーに来たんだから楽しむとしよう。
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