クローン兵士の日常 異世界に転生したら危険と美女がいっぱいでした

仮名絵 螢蝶

第一章 開幕編 大学生活から囚人生活へ?

プロローグ オレは兵士

オレは天掛あまがけカナタ。自由都市同盟軍の兵士だ。


そしてここは地球ではない異世界、オレは平和な日本にもう帰れない。


今度の作戦の舞台は荒れ果てた市街地、血で血を洗う戦争の最前線である。


この惑星で勃発した自由都市同盟軍と世界統一機構軍の間に起こった戦争になんの因果かオレは巻き込まれてしまったってワケだ。


平和な日本の平凡な大学生だったオレがなんでそんなハメに陥ったかはおいおい記そう。


戦場に鳴り響く迫撃砲の轟音と銃声、あちこちで上がる兵士達の断末魔の悲鳴。


まさに地獄絵図だが、オレにはもう見慣れた光景だ。


錆びた鉄の匂いの漂う戦場をオレは二人の仲間と共に進んでいく。


オレの耳に挟んだワイヤレスマイクから聞こえてくる指揮車両からの命令オーダー


「コマンドリーダーより1番隊のゴロツキさん達へ、そろそろパーティーが始まるわよ。やるコトはいつもの通り、目の前の敵を殺すだけの簡単なお仕事。殺せば殺すだけ報奨金もがっぽり、アンタ達の肥溜めに落ちたドブネズミみたいな人生で、こんなラッキーチャンスはもうないかもね。しっかり殺して稼ぎなさいよ!」


今日も飛ばしてやがんな。ここは地獄の真っ只中だってのにさ。


だがオレ達は同盟軍最強のアスラ部隊、そのエース大隊「水晶の蜘蛛クリスタルウィドウ」だ。


地獄の真っ只中こそがオレ達の生きる場所、そしてむくろを晒す死に場所だ。


「了解、コマンドリーダー。せっかく敵が団体さんでお出迎えに来てくれてるんだ。落ちてるカネは拾いにいくさ。水晶の蜘蛛に喧嘩を売ったら高くつくって教訓を、機構軍の玉ナシ野郎共にレクチャーしてやるぜ。」


「頼もしいわね、その意気よ。授業料は命でお支払いしてもらってね。」


「ツケにしてくれって言われるかもな。」


「戦場でのお買い物はいつもニコニコ現金払いよ。命のチップを賭けた以上、ツケはきかないわ。敵も、……もちろん私達もね。」


「……そうだな。コマンドリーダー、前方に装甲擲弾兵を発見、数は1ダース。なにかの工作中と思われる。敵はまだこちらに感付いていない。オレ達で片づける。」


「コマンドリーダー了解。休暇で行く予定の高級ホテルの宿泊費の足しにはなるわね。今度の休暇で私の処女をもらってくれるって約束、忘れないでよ?」


「そんな約束してねーよ!他の隊員も聞いてるって知ってのご無体か!」


「知ってるから言ってんじゃない。既成事実って言葉は知ってる?」


「……事実無根って言葉なら知ってる。」


「あら、はしご状の微小脳の割には難しい言葉を知ってるわね?」


「昆虫の脳味噌じゃねーかそれ!オレは虫ケラだって言いたいのか? コマンドリーダー、おまえは虫ケラにラブなのかよ!」


「やあねえ、私の愛が少し重たいっていうのは、先刻ご存知でしょ?」


「少しじゃない。スゲえ重たい。って言うか、重いを超えてもう痛いんだが?」


そこに割り込んでくる1番隊の総隊長の美しい声。


「カナタ、夫婦喧嘩は後にしな。擲弾兵に小細工させてやる気かい?」


「そんなワケないじゃないですか。」


そこで魅惑的な美声が怖い怒声に変わってオレに命令を下す。


「だったらクソ虫共をさっさと駆除してきな!」


「イエス、マム!」


言葉遊びが過ぎたみたいだ、短気なマムは機嫌が悪そうだぜ。


マムの不機嫌の低気圧がハリケーンに発達したら目も当てらんねえぞ。


機構軍の腰抜け兵士共よりマムの方がよっぽど怖え。


ご機嫌取りの為にもそろそろ仕事に掛かるとするか。


「ウォッカはオレと一緒に前に出てくれ。リムセは敵の後背に回って切り崩せ。」


「おうよ、任せときな。ヤツらにゃオレの酒手になってもらうぜ!」


「ハイです!リムセのゴハンになってもらいます!」


おいおい、酒手はともかくゴハンになってもらうはねえだろう。


リムセさん、キミは東京に棲まう喰種かなんかかい?


「リムセ、ヤツらを殺しても食ったりすんなよ?」


「また得意の揚げ足取りが出ましたです。リムセの故郷のみんなのゴハンのタネになってもらう、って意味ですぅ!」


物騒な出稼ぎもあったもんだ。リムセはまだ15歳だろ、よくまあこんなヤクザな世界に来たもんだよ。


さあ………人殺しの時間だ。


「ショータイムだ!いくぜウォッカ!」


「おう!クソ虫共を派手に二階級特進させてやらぁ!」


ウォッカは近くにあった道路標識を力まかせに引き抜いて敵に投げつける。


ロケットのように飛んでいった道路標識は見事に敵兵に命中し、その頭を熟れたトマトのように粉砕した。


一時停止の標識で、人生が永遠に停止してりゃ世話ねえな。


オレは疾走して一気に距離を詰める、ウサイン・ボルトを遥かに凌ぐスピードで、だ。


オレ、いやオレ達は強化人間だ。身体能力は並みの人間とは比較にならない。


敵の銃弾を躱しながら疾走、鉄の数倍頑丈なマグナムスチールで出来た刀を抜く。


至近距離まで間を詰めて右手だけで斜め下から斬り上げ敵兵を真っ二つに切り裂く! まず一人!


巨漢で筋肉隆々の逞しい敵兵2人が同時に上段から斬りかかってきたがオレは左手で脇差しを抜いて、振り下ろされた2本の戦斧を受け止める。


敵兵2人に驚愕の表情が浮かぶ。そりゃオレは平均的なガタイでしかないからな。


だけどな、体格や数はこの世界の戦場じゃ絶対的な支配要素じゃねえんだよ。


おまえらもこの世界の兵士ならそんぐらい分かっとけよ。


今更学習しても……もう遅えけどな!


オレが右手で振るった刀は敵兵二人をいっぺんに両断した。


筋骨逞しい上半身だけが地面に倒れ、下半身は立ったままダランと臓物をぶら下げている。


新たに敵兵二人が襲い来るがオレは動かなかった、だってもう死んでるから。


オレの目の前まできた敵兵二人はカッと目を見開いて膝から崩れ落ちる。


首の後ろにブーメランが突き刺さっている。リムセの仕事だ。


1ダースが半ダースに減った敵兵をオレ達は前後から挟み撃つ。


アメフトで言えば第4クォーター残り3分でタイムアウトなしの3ポゼッション差ってところか。


4THダウンギャンブルからタッチダウンを決めて、さらにオンサイドキックを成功させても及ばない。


つまり、もう詰んでるのさ。水晶の蜘蛛の網に掛かった時点で終わってたんだよ。


だがおまえらは何も悪くない。悪かったとすればそれは運。


オレ達に戦場で出逢っちまったツキのなさだ。


最後の敵兵をウォッカが肩から粉砕する。肩甲骨が粉々に砕けて、胸部に深く戦槌がめり込む。


「アアァァ……アーニャ……」


最後に誰かの名を叫びながら、最後の犠牲者は人生の幕を下ろした。


「……カナタ、アーニャってコイツの家族かな。」


「家族かもしれないし、恋人かもしれない。だけどオレ達には無関係の誰かだ。」


「カナタはだいぶドライになったな。」


「……戦う意志を持ってオレ達の前に立ったコイツらが悪い。そう思わなきゃやってらんねえだろ。」


「そうだな、悪かった。」


「気にすんなよ。顔に似合わず繊細なんだよウォッカは。」


「顔に似合わずは余計だ。好きでイカツイ顔に生まれたワケじゃねえんだぞ。」


「それより銃弾を二発もらってたろ、大丈夫なのか?」


「44口径じゃ俺は殺せねえよ。筋肉で止まってる、問題ないさ。」


「リムセも頑張りましたです!」


「ああ、助かったよ。司令がいっぱい報奨金をくれるといいな。」


「ハイです!」


オレは指揮車両に報告を入れる。


「コマンドリーダー、害虫駆除は終了した。繰り返す、害虫駆除は終了した。」


「コマンドリーダー了解、流石は愛しのハニーね。」


「……いつからハニーになったのか、小一時間ばかり問い詰めたいんだけど?」


「じゃあご主人様?」


「メイド服に興味はねえよ!」


いや、ちょっとは、いや、かなり、いや、大いに興味はあるんだけど内緒にしておこう。


「分かったわよ。お・に・い・ちゃ・んって呼んで欲しいのよね?」


うぉっ、キュンときたあ!そんな趣味もあったのかよオレは!


我ながらビックリしたぜ。オレって妹萌えの属性もあったのか。碌でもない新発見だ。


キュンときたオレを我に返らせたのは、マムからの新しいオーダーだった。


「カナタ、害虫駆除が終わったんならこっちに合流しな。ゴキブリよろしく、敵さんがまた湧いて出やがった。」


「イエス、マム。二人とも行くぞ。」


「おうよ。」 「ハイですっ!」




この血生臭い狂った世界でオレは生きている。いつ終わるともしれない日常を刻みながら。





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