第25話 数百年後の陽光。
俺達は道を引き返しているが、隊長達と会う事は出来なかった。 そして今は蛙が居た部屋に居る。 此処まで何故会えなかったかという理由は、俺には大体想像がついた。 きっとあの部屋で揉めているのだろう。 あの財宝の部屋で。
俺達が財宝の部屋に向かうと、やっぱりあの教授がノアさんと言い合っていた。
「だから何度も言わせるな! 此処まで来れたのは、この私が遺跡を発見したからだ! 少しぐらい褒美をもらっても良いだろうが!」
「其方こそ何度言わせる気なんですか! 今何をされているのか全部映像で送られているのですよ? それはマリーヌ様もご覧になっていらっしゃるし、後で如何なるか分かっているんですか? 死罪になるんですよ?」
「だから多少大目に見てくれてもいいじゃないか! この遺跡は私が発見したんだぞ! 私が見つけなければ、この財宝は手に入らなかったのだぞ! マリーヌ様だってその功績は認めてくれるはずだ!」
「だから!」「駄目です!」
このまま続けていても、二人の意見は決着が付かなさそうだ。 止めないと何時まで経っても帰らせてくれないかもしれない。 何時までもこんな場所で止まっている訳にもいかないし、俺はちょっと隊長に相談した。
「隊長、何時まで見てるんですか? もう遺跡の奥まで行って帰って来たんですよ。 あんなの放っておいて帰りましょうよ。」
「ああ、帰って来たのかお前等。 別に動かねぇんなら楽で良いってな。 だが終わったんならもうこんな所に居る必要もねぇな。 ・・・・・というかそのオッサンは誰だ?」
「ああ、あの人はドラゴンらしいですよ? なんか昔に天使に召喚されたって言ってました。 それとこれから、フレーレのペットになるらしいです。」
「はぁ? 天使ぃ? あいつ等ほんとに真面な奴がいねぇな。 それにあのオッサンがペットねぇ? 彼奴そんな趣味してやがったのか・・・・・。 なる程なぁ、どうりで男が出来ねぇ訳だ。 今まで若い男達を断っていた訳が分かったぜ。」
「それじゃあ如何します? 気絶でもさせましょうか?」
「いや、それは不味いな。 俺等が暴力を振るった所が映像で流されたら、マリーヌ様に何を言われるか分からねぇ。 一度説得してみるとしようぜ。」
『そうですか、じゃあ宜しくお願いします。」
「そうだよな、お前はそう言うだろうと思っていたぜ! まあ良い、俺が行って来るから、お前は一応周りを見張っとけや!」
「へ~い。」
隊長が二人の元へ向かって、教授の説得に試みた。
「あのなぁ教授さん、まずはマリーヌ様に報告してから、その褒美を貰えば良いじゃねぇか。 そうすりゃ合法だ、アンタを咎める奴は誰も居ねぇぞ。 良いじゃねぇか、ちょっとばかり遠回りするだけだぜ。」
「そんな事を言って、私が居なくなったら全部持って行く気なのだろう! 私は騙されないぞ!」
「いや俺等はそんな事しねぇって。 だからな・・・・・。」
「無理だ! 私は・・・・・。」
一生懸命教授を説得しているが、全く話を聞いてくれない。 そのまま十分間説得を続け、ついに。
「あああ、もう良い! 悪いがもう力ずくで連れて帰るぜ! とりゃぁッ!」
「グフッ・・・。」
説得は無駄だと隊長が教授を殴りつけた。 もう面倒臭くなったのだろう。 でもまあ二時間も三時間も説得して駄目だから仕方ないんじゃないだろうか、自分の考えを絶対曲げない人なのだろうし。
「オッサンが目を覚ます前にこの部屋から出るぞ! おいバール、教授はお前に任せるぞ。」
「ええぇぇぇ・・・・・。 また俺ですか? どうせ帰りの馬も足りないですし、隊長が運んでくださいよ。 今まで休んでたんですから。」
「はぁ、まあ確かに休んでたしな。 分かった、こいつは俺が運んでやるよ。 んじゃ帰るぞお前等。」
「ああ、やっと外に出られるのですね。 夢にまで見た青空がやっとみられるのね!」
「あ、フレデリッサさん、まだ出るのに五時間ぐらい掛かりますよ。 遺跡の道が結構長いですからね。」
「ご、五時間ですか、まあその位なら、長い短剣生活の上ではそう大した時間じゃありませんわ。 ホホホ・・・・・。」
「おいコラ、来ねぇんなら置いて行くぞバール!」
もう皆は部屋の外に出て行ってる。 目の前にあるお宝には後ろ髪を引かれるが、これ以上は止めておいた方が良いだろう。 俺は返事をして隊長達を追いかけた。
「へ~い、今いきま~す。」
帰り道も相当長いのだが、敵はもう殲滅してあり移動は楽だった。 思ったよりも短い時間で外に出る事が出来て、フレデリッサさんも喜んでいる。 しかし外は真っ暗で、馬でこの時間を戻るのは危険だった。 とゆう事で遺跡に戻り朝を待つ。 正直もう眠い。
幸いブラちゃんが夜の見張りを引き受けてくれて、俺達は安心して眠る事が出来た。 どうもドラゴンは一日二日眠らなくても大丈夫なんだそうだ。
そして朝になり。 フレデリッサの大声と共に、俺達は全員目を覚ました。
「朝が来たわよー! さあ今皆さん起きなさい! もう出発の時間ですよー! さあ早く早く早く早く! 起きなさい起きなさい起きなさい起きなさい!」
よっぽど外に出たかったのだろう、俺達を起こす為に全力で声を張り上げている。 気持ちは分かるがとても煩い。
「あああああ、うるッッせぇ! バール、ちッとそいつを黙らせろや! そいつはテメェの担当だろうが!」
「ああ、そっすね・・・・・。」
まだ正直頭がボーっとしているが、未だに叫び続けているフレデリッサを落ち着かせる為、俺は彼女を遺跡の外へ連れて行ってやった。 なんだか反応が無い、外の景色を見て感動しているのか?
外にはブラちゃんが見張りをしていてくれている。 俺は軽く挨拶をした。
「あ、お早うございますブラちゃん、今日も良い朝ですね。」
「誰がブラちゃんだ! それじゃあこの我が・・・・・いやもう良いわ、お前達に言った所で聞いてはもらえぬからな。 もう勝手に呼ぶが良い。 それでフレーレ様は起きていらっしゃるのか?」
「いや、まだ寝てますよ。 もうちょっとしたら起きて来るんじゃないですかね。」
「むっ、そうか。 ・・・・・ときにバールとやら、ペット等と照れておられたが、我を求め、我を連れ出すフレーレ様は、この我の嫁という事で良いのだろうか? 大昔に姫を攫った事はあるのだが、攫われた事は無くてなぁ。 少々反応に困るのだが。」
そういう感じで連れ出したのじゃないと思うんだけどなぁ。 本当に犬みたいな感覚で連れて来たんだと思う。 まあでもそれを俺が言わない方がいいだろう。
「そういうのは本人に聞いてくれませんか。 俺にはよく分かりませんからね。 じゃあ俺はちょっと散歩をして来ますから、引き続き頑張ってくださいね。」
「うむ、フレーレ様の御身は我が護り通そう。」
何か凄い勘違いをしているブラちゃんに任せて、俺は近くを散歩していった。 まだ朝も早く、太陽が昇り始めた頃だ。 光は少しずつ闇を打ち消し、空が青く染まっていく。
俺は移動手段のロバの無事を確認すると、フレデリッサさんに見える様に、短剣を手に持って歩き始めた。 遺跡の外の風は気持ちよく、妙に清々しい気分になる。 きっとフレデリッサさんも それを感じているのだろう。 外の景色を充分に堪能し、夜が完全に消えた頃。 俺はフレデリッサさんから声を掛けられた。
「・・・・・ねぇバール。 私は今とても感動しているのですよ。 青いく澄み切った空も、空に浮かぶ輝く太陽も、風に揺れる木々達も、閉じ込められる以前は何時も見ていた景色だというのにね。 今はとても美しく、とても懐かしく見える気がします。 この私を連れ出してくれて、とても感謝しております。 ・・・・・ありがとうバール。」
一瞬だけ、一瞬だけだが人であったフレデリッサの姿が見えた気がした。 それはとても美しく、王女と呼ぶに相応しい姿だった。 でもたぶんそれは気のせいだ。 太陽の光が見せたただの幻。 今はそういう事にしておくとしよう。
そして俺はその雰囲気に流されたのか、姫を護る騎士の演技をし始めた。
「フレデリッサ様、どうぞお気になさらずに。 美しい姫を助け出すのは、勇敢な兵士の役目ですから。 ではそろそろ仲間の者達が起床した頃でしょう、少々の間ですが、二人の帰路を楽しむと致しましょうか。」
「ええそうですね。 しばしの間エスコートをお願い致します。」
「はい、目的地に着くまでは、このバールが命を以て貴女をお守り致しましょう。」
そして俺は短剣を手に乗せて、そのまま遺跡へと帰って行った。
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