兵士バール、トーナメントを戦う。 一難去ってまた一難。

秀典

第1話 五国トーナメント開催。

この大きな大陸にある一国、ブリガンテ城のマリーヌ王の執務室。 ラグナート王からの一通の書状が届けられた。 マリーヌは今その書状に目を通している。


 その中身とは、ブリガンテを主催とした、五国トーナメント戦を開催して欲しいというものだった。 この大陸の五国を集めて欲しいと書いてあった。 どうせ本当の目的は兵力の調査とかそんなものだとは分かり切っているのだが、此方としてもそう悪い話ではない。


 他国の情報という物は今の世の中では十分貴重な物だった。 兵士の力量やその士気、色々な情報を得られるかもしれない。 何よりこの国で開催するのなら、貴重な戦力を道中で亡くす事も無い。


 そして王国のあの男、あの男の実力を、今度は外から見てみるというのも悪くない。 しかしそれだけでは王国を呼ぶ意味が薄い。 タッグ戦、いやどうせなら団体戦として四人ぐらいを集めるとしようか。 向うからの提案だ、ラグナードは断ったりしないだろう。


「そこの貴方、今からブリガンテと、王国への書状を送ります。 一番上等な紙を持ってきなさい。」


「ハッ!」


 マリーヌ王によって綴られた書状は、二国へと無事に届けられ、その内容が両国へと伝えられた。 


「さてと、トーナメントの準備をしないとね。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 王国の城、この俺バールは、何故かイモータル女王の元へと呼び出されていた。 俺は手足を槍かし、多少伸ばす事も出来る能力を持った兵士だ。 キメラ化という手術を受、そういう能力を得ている。


 その俺としては、一切呼び出される覚えはない。 最近は真面目に仕事をしているし、日中ちょっと昼寝をしているだけだ。 俺には全く落ち度がないはず。 という訳で、怯える事もなく普通にしている。


「お呼びでしょうかイモータル様。」


「良く来てくれました、この書状はマリーヌ王からの重要な物です。 バール、これを無事にアツシさんに届けて貰えないでしょうか?」


 アツシというのは透明化の魔法を使うだけのタダの人間だった。 別に大した特徴はない。 いや最近は無駄にハードな特訓の末に、体力だけは無駄にあるのだが。


 何時もの伝令役として、この任務は、通常の任務とさほど変わらない。 王国の中で襲われることも無いし、ただ手渡すだけだ。 特に何も問題はない。


「あ、はい。 了解しました。 でもあのえっと、イモータル様、ちょっとお聞きしても宜しいでしょうか? マリーヌ王とアツシって、お知り合いなんでしょうか?」


「ええ、ブリガンテでは色々ありましたからね。 アツシの名前も知られているのでしょうね。 だからこそ今回の五国共同のバトルトーナメントの選手として、アツシさんが招待されたのですしょう。」


 少し前にアツシがブリガンテの国へ派遣された事があった、その時に色々あったのだろう。


「アツシがバトルトーナメントですか? 確かに彼奴の魔法を使えばそこそこは行けるとは思いますけど、国の代表として出すのには不足かと。 誰か代役を立てた方が良いんじゃないでしょうか?」


「しかし、マリーヌ王からの指名を無碍にする訳にもいきません。 アツシさんには頑張って優勝を目指してもらいましょう。」


「それだったら隊長なんてどうですか? 隊長なら姿を変えられるし、アツシとしても活躍出来るでしょう。 他国の猛者にも引けを取らないでしょうし、優勝も狙えるんじゃないでしょうか。」


 隊長とは俺の上司にあたるべノムという男で、変身能力を持つ最速の兵士だ、全身が黒く、マントを刃として戦う、カラスっぽい男だ。 その人もキメラ化の手術を受けて、その能力を得ている。


「あら、それはとても良い考えだわ。 じゃあこれを持ってべノムの元に届けて頂戴。 頼みましたよバール。」


「はい、直ぐに行って参ります。 それでは失礼しました。」


 俺はイモータル様の前を去ると、早速べノム隊長の元へと向かった。 今日の隊長の任務は確か、外回りだったはずだが、もうそろそろ王国へと帰って来る時間だ。 どうせ昼飯でも食いに、自宅へ戻ってるだろう。


 俺は急ぎ隊長の家を訪ねると、隊長は予想と同じように、自宅で食事を取っていた。 新婚だから仕方ないとは思うのだが、俺としては羨ましい限りだ。 それにしても人数が多いな。 フレーレとエルまで一緒に食事しているとは。 何か有ったんだろうか? 面倒な事に巻き込まれる前に、早く書状を渡してしまおう。


 因みにフレーレは、格闘を得意とし、左腕と右脚が甲殻に覆われた女性兵士である。 もう一人のエルは、炎の翼を持ち、炎の大剣を扱う女兵士だ。


「隊長、イモータル様からの書状です。 どうぞお受け取りください。」


「おっ、遅かったなバ―ル。 やっと来たか。 それじゃあ揃った事だし、ブリガンテに向かうとするか。」


 この人は何を言ってるんだ。 行くのは隊長で俺じゃないのに。


「えっ? 一体何の事ですか?」


「何だ、聴いてないのか? お前も五国トーナメントのメンバーに選ばれたんだよ。 こっちで準備してあるから、じゃあ早速行こうぜ。」


「・・・・・隊長、一体何を言われてるのか理解出来ませんが、もうちょっとちゃんと説明してくれませんか?」


「だからな、お前がトーナメントに出るってだけだ。」 


「いや、ちょっと待ってください。 そもそも俺がイモータル様からの書状を渡す前に、何で隊長が内容を知ってるんですか? 凄く可笑しいじゃないですか! その辺どうなってるんですか!」


「おう簡単に説明してやろう。 まずブリガンテから書状が届くだろ。 イモータル様がそれを読むだろ。 俺に書状が届くだろ。 俺がメンバーを探すだろ。 俺がお前を選ぶだろ。 で、どうせ嫌がるだろうと思って、イモータル様に一芝居打って貰ったわけだ。 どうだ、理解したか?」 


「あ、隊長。 俺腹が痛くなって熱が出て来たんで、今日からちょっと休暇を貰いますね。 じゃあそういう事で、さらばです!」


「俺がお前に追いつけない訳が無いだろう! 待てコラアアアアアアアア!」


 結局俺は追いつかれて、ブリガンテまで強制連行される事になってしまった。 凄く納得出来ないが、空に釣られた状態ではもう納得せざるを得ないだろう。 空中で暴れたら危ないから。




 隊長のスピードで、かなりの風圧を顔に受け続けた俺は、少々風邪を引きそうになったのだが、無事にブリガンテまで空輸された。

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