第40話 告白

『わっしょーいっ!』

「うわーっ?」


 ドサーッと、チョップはマルティニク王たちが待ち受ける、ステージ上に放り投げられる。


「えー、急に何なんですかー? ほどいて下さーい」


 ろくな説明も受けずにいきなり縛られ、無理やり会場に連れて来られたチョップ。

 ロープを解かれると、ステージを見上げる数万人の視線を受けている事に気づく。


「え……? これは……?」


『あれは……、ポンコツ水兵じゃないか?』

『イメチェンか? 白髪になってるぞ』

『えらく大ケガをしてるようだし』

『なんで、あいつが表彰台にいるんだ?』


 突然現れたチョップの変わりようと、彼の活躍を知らない観衆たちは、皆一様にどよどよする。


「静まれーい!! 引き続き、論功行賞を執り行う! 王国水兵団第一部隊隊員、水兵チョップ!」

「えっ、論功……? あっ……、なるほど。はい」


 ようやく、ドッキリを仕掛けられた事を理解したチョップ。

 両腕を三角巾で吊った彼の姿に、マルティニク王は。


「わっはっは。どうやら、右腕はくっついたようじゃな」

「はい。動かすことは出来ませんが、医療班の皆さんのおかげでなんとか」

「よかろう。……皆の者、良ーく聞け!! この者は先の戦いで危機に瀕した王族および水兵団を救うため、人間大砲で空を飛び、たった一人で援軍に赴いた!」


 良く通る王が放つ声に、おおおと観衆から感嘆の言葉が漏れる。


『あの、戦えないポンコツ水兵がか?』

『人間大砲だって?』


「そして、魔導海賊団を相手に奮闘し、見事に敵の首領『魔導海賊バルバドス』を討ち取った!」


 これには、オオオオオッ! と、どよめきが上がる。


『バルバドスと言えば、南海の魔王の異名を轟かせていた海賊提督……』

『そんな恐ろしい敵を、あのポンコツが?』


「最終的には『帝国皇帝アンドレス=バミューダ』が指揮する帝国海軍、および大旗艦デストルクシオンを沈め、この戦いの勝利を決定的なものとした!!」


 ウオオオオオオオオオオーーーッ!! と、会場をビリビリ揺るがす大歓声が上がった。


『噂は本当だったのか!?』

『本当にあの、帝国を……』

『凄いぞ、ポンコツーっ!』

『うおおおおおーーーーーっ!!』


 その様子を見たチャカは。


「あれ? チョップが海を割ったり、八つ首のケツアゴドラゴンと戦ったりしたことは言わへんのですか?」

「そんな事バラしたらエラいことになるだろうが」


 当日、国民たちは結婚パレードで西の港に集中していたため、チョップの雷を呼び、竜とあいつ戦いを直接見た者はほとんどおらず、四つに割れた東の海もすでに元の姿に戻っている。

 トーマスが言うには、自分たちですら未だに現実の事とは思えないのに、わざわざ混乱を招くような事を言う必要はないとのこと。


「水兵チョップ! の者の功績に報い、褒賞として『騎士ナイト』の称号を与える!」

『騎士の称号だって!?』


 『騎士ナイト』と言えば、百年に一度出るか出ないかという国民のあこがれ。英雄『白鷹』も一度はその候補に上がったほどの栄誉の称号。

 観客たちはその瞬間を目の当たりにできると、緊張の面持ちでその時を待つ。

 ところが。


「あの……、僕は受け取れません」

『なに……?』


 思いもよらぬチョップの言葉に、マルティニク王を始めとして、会場の全ての者から疑問の声が上がる。


「なぜだ? 騎士になれば、サン・カリブ商店街での買い物も10%引きになるなど、特典の数々。何か不満でもあるのか?」

「いえ、不満など。ただ、騎士というのは『国を守る者』の称号のはず。僕はもうこのとおり、国を守るために戦えませんから」


 チョップは三角巾で吊った両腕を示す。


「ふむ……、そなたの祖父も称号を固辞したというし、血は争えないということか。では、金一封だけでもどうだ?」

「いえ、それもいただけません。僕一人で戦ったわけではありませんので、それは今回の件で亡くなられた方のご遺族、それから国政や水兵団の建て直しのために使って下さい」

「むう……」


 それを受け、ジョン兵団長とトーマスも報奨金の返納の意思を表し、チャカは「これは実家の仕送りやっちゅうねん」と駄々をこねる。


「わかった。では、これならどうだ。入って参れ!」


 マルティニク王が呼び掛けると、ステージに上がってきたのはメイド服を着た見目麗しい四人の女性。


「お主の世話をしたいという、十代から四十代までの女性を取り揃えておる。より取りみどりじゃ、好きな者を選ぶがよい」


 ちなみに四十代のメイドさんは、マルガリータ姫が以前ワンピースを買った服屋の女主人さん。太もものガーターベルトも艶めかしく、あっは~んと言いながらポージングを取っている。

 チョップは、顔を背けて赤らめつつ。


「えっと……、それはちょっと……」

「そうか、一人じゃ足りないということなら二人でもいいぞ。それとも全員まとめてか? ええい、持ってけドロボー!」

「そうじゃなくて、僕にメイドさんは必要ありません」

「何だとっ! メイドさんをはべらすのは全世界の男のマンであろう! 第一、両手が使えないのに一人でどうやって処理をするのだっ!?」

「下ネタ……!」

「お父様っ!!」


 マルガリータの剣幕に、すごすごと退場するメイドさんたち。


「あの……、僕は……」


 言いかけるチョップを、マルティニク王は皆まで言うなと制し。


「うむうむ。お主の望みはわかっておる。お主もこのために頑張ったのであろう?」


 マルティニク王はコホンと一つ咳払いをすると、マルガリータ姫を側に呼び寄せ。


「水兵チョップ! 貴殿と我が娘マルガリータとの婚姻を認め、王族として迎え入れる事を約束する!!」


 サン・カリブ王国民にとっては驚天動地の展開に、ウオオオオオーーーッという怒号に似た歓声と、キャアアアアアーーーッと悲鳴に近い黄色い声が上がった。


『あの、西海洋の至宝とも言われるマルガリータ姫とポンコツ水兵が結婚だって!? 不釣り合いすぎるだろ!』

『でも、ポンコツは英雄ナックルの孫だし』

『実は姫の幼なじみらしいぞ』

『そうか、幼なじみならしょうがないな!』


 ガクッとチャカはズッコケながら、どんだけ幼なじみシチュに理解があんねんと、観衆ギャラリーにツッコむ。


「お主にとってマルガリータに比べれば、地位も名誉もメイドさんすらもまつな事であったであろう。さあ遠慮はいらぬ、受け取ってもらえるな?」


 マルガリータ姫は頬を染め、期待を込めて少年水兵をみつめる。

 だが、チョップは少しだけ躊躇しつつも、国王に答えを告げた。


「謹んで……、辞退させていただきます」



 *



「チョップくん……?」

『えっ……!』


 予想外のチョップの回答にマルガリータは言葉を失う。

 同時にどよめく観衆たち。


「なぜだ? お主とマルガリータは恋仲のはず。あれだけ姫のために、お主は命がけで戦っていたではないか。なぜ断る!」


 実は貧乳の方が好みなのか? そうなのか? と問い詰める国王に、チョップは決意を込めた片眼まなざしで答えた。


「それは、僕が『殺人犯』だからです」

「なに……?」

「未解決になった七年前の『王女誘拐未遂事件』。あの時、誘拐犯たちを惨殺したのは、僕なんです」

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