電波少年 (お題:驚愕・密室・電波)
「ビビビビびー」
突然なのだが僕のクラスには電波少女がいる。
「ややっ!あなた!今私と目が合いましたね!もしや
やばい。目をつけられてしまった。
僕は
そんなの決まっている。僕がボッチだからだ。
「おい!貴様!ワザとらしく顔を隠すんじゃない!」
「ちょ!返せよ!」
僕は取り上げられた教科書に手を伸ばしたところで、教室中の視線が僕たちに集まっている事に気が付いた。
僕は
教科書などどうでも良い。今は皆の視線から逃げたかった。
「おいおい、如何したんだい少年。急に歩き出して」
廊下に出ても未だについてくる電波少女。
そんなくだらない事を考えつつ、僕は屋上まで逃げる。
いや、屋上まで逃げたというよりは誘導されたに近いか。
俯いて歩いていた僕は彼女から逃げる事しか頭になかったのだから。
屋上に着いた彼女は満足げな表情をして、扉を閉める。
僕はもう逃げられなかった。まさに空中の密室である。
「君はこの世界が詰まらんと思わんかね」
電波少女が気取った風な口振りでそういった。
確かに詰らなくはあるし、ここなら誰もいない。彼女に話したところでどうにかなる様な事もないだろう。
そう思い僕は口を開いた。
「詰らなかったら何だって言うんだよ」
僕が喋った事に満足したのか、電波少女は、うんうん。と頷く。
「一緒に宇宙に行かないか?」
…まぁ予想していた範疇の回答だ。詰まり仲間が欲しいという事なのだろう。
「残念ながら僕はお友達ごっこが嫌いなんだ。他を当たってくれ」
僕は彼女を押しのけ、屋上のドアノブに手をかける。
「嘘つき」
彼女は小さくそう言った。
「嘘じゃない」
しかし、そうは言ったものの、ドアノブを回す手がどうも動かなかった。
「君は皆と仲良くしたいはずだ。いや、皆じゃなくても良い。誰か一人、くだらない事でふざけ合って、話ができて、一緒に帰ったり、行事で盛り上がったり。そう言う事がしたい。それだけなんだろう?」
電波少女は僕の背後でそんな戯言をぺらぺらと広げる。
「違う!」
僕は叫んだ。
そんな甘ったるい妄想をする訳がない。
なんせ僕は人の怖さを、残酷さを十分に知っているのだから。
「それでも君は期待している。人の優しさに」
「だからちがっ!う、って…」
後ろへと振り向いた僕は驚愕した。少女が屋上のフェンスを登っていたからだ。
「おまっ!何をして!」
僕は咄嗟に彼女に駆け寄るが、辿り着く頃には、彼女はもうフェンスの向こう側にいた。
「私はこんなにも期待しているよ。君の優しさに」
フェンス越しに彼女が僕の手を包み込む。それはとても暖かかった。
その暖かさがとても怖かった。
「そうか、君は、そうなんだね…」
気づいた時には僕はその手を振り払っていた。
彼女は寂しそうに笑いながら落ちて行く。
手を伸ばせば届く距離、フェンスがなければ届く距離。
しかし、仕方がない、なんせフェンスがあるのだから。
決して僕の手が彼女に届く事はない。だから僕は手を伸ばさないのだ。
僕は彼女が落ちて行くのを静かに見守った。
それからどれだけ時間がたったのか、もう夕暮れ時になっていた。
僕は最後に彼女が握った手を見つめる。もう、彼女の体温は思い出せない。
「…帰ろ」
僕は一人屋上を後にした。
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※おっさん。の小話
今回は他人に恐怖する少年の心を描いた一作です。
少女は、少年に残った唯一の無邪気さですね。
少年はこれからどうなって行くのか。
少年の中の少女は本当に死んでしまったのか。
貴方の中の少女は息をしていますか。
そんな事を考えながら描いた一作でした。
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