第45話 落し物

 宵の口。それは夜の帳が下り、満天の星空が飾られ始めた頃。


「遅い!」

 イライラしていた自分を反省したのは何処へやら。白頭巾の怒りは爆発していた。


 微かに響く音。

「この走り方は神父さん?」

 その推測通りに、

「大変です。」

 勢いよく開いた扉から駆け込んで来た。


 息を切らせながらも、

「大変です!」

 繰り返した。


「落ち着いて。大変なのは判ったわ。」

 コップに水差しから注ぎ、神父に渡す。


 一気に飲み干すと落ち着き、

「こ、これを。」

 懐からだしたのは靴。

「これ!!!!」

 声で、驚きが測れるなら値は最大になるのだろう。


 白頭巾は、ゆっくりと手を伸ばし、靴を取ると凝視しした。


 やがて、

「一人で行かせたから…。」

 焦点の合わない目で靴を見ながら、ブツブツと繰り返した。


 そんな白頭巾の両肩を掴み、

「しっかりください! これはペーターさんの靴なのですか!」

 前後に揺すった。


 その行為が、功(こう)を奏(しょう)し、

「神父さん。これを何処で?」

 我に返った白頭巾。

「拾った方が親切に『教会に来ている子供さんのでは?』と届けて下さったのです。」

「拾った…。」

「確か街の中央広場の辺りと言ってました。」

「帰り道に食材を買いに行くって、私と別れたの…。」




「危ない!」

 不意に白頭巾が神父に飛び掛かる!


 もつれ合い転がる二人。その間に白頭巾の左手が刃を窓へと放つ。


 同時に『ころん』と床に落ちるもの。それは、窓から投げ込まれたもの。


 起き上がると同時に扉へ向かう白頭巾の右手には、ナイフが握られていた。


 扉越しに外の気配を探る。


「逃げた?」

 扉をゆっくり開くと、外を見回す。

「居ないか…。」



 今だに天井を見ているが、自分に何が起きたのか理解できていない神父に、

「神父さん。もう、大丈夫よ。」

 声を掛けながら、投げ込まれたものを拾う白頭巾。


「は、はぃ…。」

 起き上がるところに、

「これは!」

 白頭巾の驚きが割り込んだ。

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