第33話 決着


「大人しく捕まってよ。」

 その申し出は、最後通告と同等にしか感じられなかった。


「グルルル。」

 激痛に耐え威嚇。


「お願いだから。ねっ。」

 言いながら上半身を起こす。


 白頭巾の狙いが甘くなった一瞬を捉えた人狼。

「ガルル!」

 痛む左足で机を蹴り飛ばした。


 それは上に乗っていたものを撒き散らしながら白頭巾へと迫る。


「ちぃ!」

 舌打ち。

『パン!』

 向かってくる机越しに人狼を撃ちつつ、上半身を再び床に戻し側のベッドの下へ転がり込む。


 派手な音は、机の断末魔。



 ベッドの下から机だったものを蹴り飛ばし出口を作る。

 入った時と同じく転がり出て来た。


 拳銃を構え狙いを付けたのは、人狼が居た場所。

 そう、居た場所。過去形になっていた。

「逃げた。」


 起き上がり、扉から外へ。素早い動きは、まさに飛び出す。



 月明かりに照らされる四脚で駆ける獣の姿は、負わされた傷の痛みで歪められていた。


「待て!」

 その言葉に振り返るが、速度を緩める事なく街の方へ。


 遅れ駆け出す白頭巾。

「この距離じゃ届かないか。」

 構えようと上げた拳銃を下ろした。



 街の中まで逃げ込んだ人狼。

「あっ!」

 屋根に飛び上がる。


「屋根か…。」

 流石の白頭巾も屋根には飛び上がれない。



 屋根から屋根へと飛ぶ人狼を、路地を走り追い掛けるうちに見失った。



「残念。」

 諦めるきっかけの言葉で家に向かった。




「ただいま。」

 扉を開くとペーターが、

「捕まえられた?」

「屋根に上がられたら追い掛けるのは無理ね。」

「確かに。」

「折角、殺さないようにしたのに。」

「それで逃げられたと。」

「あーあ。」

 伸び。

「今夜はもう来ないだろうから、寝ましょ。」

 家内を見回し、

「明日は大変だしね。」


 ペーターは黙ったまま、闘いで散らかったベッドの上を片付ける。


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