第8話 市長宅
使用人が先回りして手配していた。
市長宅に到着すると、同じく医者が到着する。
急(せ)かされたのは明白。初老の医者は肩で息をしていた。
「市長を寝室へ。」
屋敷に居た格上らしき使用人が指示を出す。
「入っても、良いかしら?」
白頭巾が玄関前で、指示を出した使用人に聞く。
使用人は白頭巾を一瞥(いちべつ)し、次に神父へと目線で質問した。
「この方は、市長さんのお客様です。」
神父は口で答えた。
神父の答えに納得し、無言で頷くと、
「ようこそ。」
中へ招き入れた。
診療を始めた医者に向い白頭巾は、
「一つ。その糸を最低一週間は抜かない事。」
言葉の重みを知るのはあの場に居た者だけ。
「もし、抜いたら責任は持たないわ。」
医者の反応は生意気な小娘の戯言を聞くそれだった。
白頭巾は慣れた感じで無視し、
「もし、抜くのなら言って代わりの糸を用意するから。」
「こっちは任せて、詳しい話を聞きたいわね。」
神父は無言で頷き、
「すみません。何処か部屋をお借りできませんか?」
聞かれた使用人は、
「解りました。直に用意いたします。」
白頭巾とペーターと呼ばれた男の子に神父が案内されたのは客間。
「ここをお使いください。」
一礼し、下がろうする使用人に、
「あっ。食事よろしくね。朝から運動したから、お腹空いちゃった。」
声を掛ける白頭巾。
「僕も!」
ペーターが続く。
先程起きた事を運動と言った白頭巾に呆れる神父。
座り心地の良い椅子に掛け神父は話始めた。
「大体の状況は手紙の通りです。」
「そうみたいね。」
「ですが、先程の動く死体は初めてです…。」
白頭巾は少し考え、
「詳しくは調べてみないと判らないけど…。多分、マスターの力が強くなって来ている…、かな?」
答えなのだろうが、聞いた神父には判らない事ばかりだった。
「マスターですか?」
「あの動く死体を作ったモノ。それがマスター。」
間を置き、
「傷口から魂を侵す毒を注入し同族にする怪物。」
さらりと日常では聞かない言葉を聞き、
「怪物!? そんなモノが居るのですか…。」
驚きを口にした神父。それに対して、
「さっき、見たでしょ。」
冷静に言った。
「はい…。」
その言葉で神父は思い当たり、
「先程、傷口から魂を侵す毒を注入と言われましたが、市長は大丈夫なのですか?」
今度は白頭巾が驚き、
「中々、鋭いわね。その怪物は銀で浄化できる。」
「銀ですか…。」
「逆に言えば、銀以外では、本当の傷を付けられない。」
神父の脳裏に先程の戦いが再生された。
最初に使っていたナイフの攻撃では反応しなかった死体が、あの短剣の攻撃で、苦しんでいた…。
「あの短剣は銀製ですか…。」
「正解。まさか、いきなり出会(てくわ)すって思ってなかったから護身用のナイフしか持ってなかったのよね。」
「護身用ですか…。」
神父は、苦笑いする。
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