1-1 地底人
「ヒバリィィーーー!!」
その小さな
ヒバリと叫ぶ深緑色の髪をした男の名は、ジム。三〇を超えるその男は長身でも色男という訳でもないが、男前で筋肉に包まれた身体は
普段の生活では見せない姿に、後ろで一緒にヒバリを探していた同じ班員のライナは肩を落としてため息を吐く。
「何もそんな必死になって叫ぶ必要はないんじゃないですか、リーダー?」
ジムと同じ髪色をした美少年。ライナはヒバリの幼なじみにして、唯一の男友達。そんなライナは必死に叫び続けている本来第一班のリーダーであるジムを落ち着かせるため、冷や汗を流しながらも冷静に話しかける。
「あぁ!?」
しかしライナはジムのその反応にはもう慣れたかと言わんばかりに、
「ヒバリが作業から抜け出すなんていつものことなんですから、その度に目を
両手を肩まで持っていくと、首を振る。
ジムは
ライナはジムが見せた少しの隙に漬け込み、話を続けようとる。
「だから少しは落ち着いて───」
「うるせぇな!俺たちがこうしてベラベラ話してる間にも、あのバカが何しでかしてるかわかったもんじゃねぇ!いちいちベチャクチャ話してる暇があんだったらとっととあのバカを探して村に帰るぞ!!」
がしかし、今のジムには何を言ってもやはり
ライナは少し呆気に取られ沈黙する。気づいた頃にはジムは既にヒバリの
小さく肩を落とすとため息をつく、ライナはやれやれと左右に首を振ると、諦めるように笑みを作り直しヒバリの捜索に戻ろうと後ろに向き直った。するとその後ろで、ライナより一層呆気に取られ硬直こうちょくする少女が居た。
それはジムやライナと同じ髪色、つまり
「あの⋯⋯いつも思っているのですが、なんでリーダーはあんなに怒ってるのでしょうか⋯⋯?」
恐る恐るライナに近づいてきたリンは顔を近づけ囁く。
しかしライナはそれを聞いてか否か不意に軽く吹き出した。
「ぷっ、あはははは」
悪気は無く整った顔を崩しライナは眩しく笑うと、目尻から出てきた涙を拭う。
反対にリンはライナが笑った意図をつかめず、困惑を隠しきれない状態だ。
「ごめん、つい面白くて。あれは怒っているわけじゃないんだよ、ジムさんは"親バカ"なのさ」
目尻を擦りながら言い放つ。
リンはその言葉を聞いた途端ハッと目を見開き、どこか腑に落ちた。そして無意識に向こうでヒバリを探し続けているジムの方に目を向ける。
「さ、ヒバリを探そうか」
それに続きリンも後を追おうと笑顔を向け小走りでライナの元へと向かった。
「あ、はい!」
※※※※※※※※※※
夢を見た。
本を読んでいるあの時に寝落ちした、ほんの数分で。
そこは土で覆われた世界では無く、黄緑色の草が絨毯のように果てしなく続く場所。そんな気持ちよさそうな場所で私は、大きく体を伸ばし寝転んでいる。仰向けの状態の視線の先には見たことも無い光景、青白い光で輝く『空』がどこまでも広がっていた。
土の天井でも岩でもない、
しっかりとした色で輝きを放つ天井は
視界一杯に広がる青い天井に限界はなく、どこまでも広くどこまでも深い。
今まで見たことも無い光景に意識全部が集中する。
見たことも無いはずなのにハッキリとしているこの
そしてある言葉が
この光景を自分は知らない。この光景を自分は見たことが無い。───なのに、知っている。
自分が発した言葉から生まれた謎が、急速に加速して行く。深く考えようとすればするほど
そしてどんどん
長く続く
土壁に埋まってある鉱石から放たれる黄色い光と手に持つランタンによって、普通は暗いであろう土の中はすでに視界が行き届く。
ここの探鉱道の近くでは水が通っているのだろうか、
特に意味もなく前を先に歩くナツに目を向け、また前を見直す。
(ジムさん達と離れてから
ジムさん達が居るとすれば
うまい具合に水が音を奏かなで、頭を空っぽにしてくれる。
夢───あれは一体なんだったんだろう。
残念なことに内容について覚えているのは『空』と言う無限に広がる天井だけ。そこで思い浮かんだ
空、確かにそんな言葉があったかもしれない。記憶の
昔、世界は滅亡した。
人間達の身勝手な行いによって地球と呼ばれる惑星の
木々や植物もほぼすべて枯れ果て今では
そして人類の人口の八割は、怪物やウイルスによって
人間達は
そしてそんな人間共を
幼い見た目をした女神二人は
『一度見た絶望を教訓に、もう身勝手な
人間達はそのあまりのことに
神は人間を平等に分け、
その世界書で出てきた女神が造った二つの世界の内の一つがここ、『
私たち大空洞で暮らす人間を
大空洞の村は全部で一四、その一つ一つの村に必ず置いてあるフェヌアの神器と呼ばれるものが今持つ世界書。この世の全てを記された絶対の本。
私たち地底人は皆そこから文化の知識を得て、暮らしの方法を学んだ。
だからそこに記されているものは信じるしかない、しかしそれが幾ら世界書であったとしても自分の目で見ないことにはやはり信じることが出来なかった。いや、信じたくないだけなのかもしれない。
少し
「やっぱり⋯⋯嫌いだ」
息が少し荒くなり、悪態あくたいを吐く。
嫌い。別に大空洞が、ナツが、
私たち地底人の子供、正確には六歳から一四歳までの成人を迎えていない地底人には朝の九時から六時間の労働が
だけど私は、この作業が嫌いだ。
面倒くさいからとか疲れるからとかじゃない。だけど、嫌い。やっぱこれはただの村の人達に対する当て付けなのかもしれない。自分が他の人達と違うからと、
自分が住む村は第二村『クルベラ』。私の生まれはここじゃない。村の入口付近に捨てられていた所をジムさんが拾ってくれて、親代わりに育ててくれた。
最初の頃、ジムさんは私の親を見つけようと、一四の村全てを回ったらしい。けど結果両親は見つからなかった、と言うか大空洞には存在しないとすら思ったらしい。 なぜなら、
どの村を回ってもそんな美しい髪色をした者などいない。だから村人は、捨て子であり、
そして一五年経った今でもそれは変わらない。と、嫌な事を思い出してしまったヒバリは顔を
もう慣れたつもりだったのだけれど、やはり無理があったらしい。
気分とともに頭が下に下がる。
茶色く少し湿った地面を見ながら進む。するとその先、少し顔を上げた先に赤色の
「?
そこには点火石と呼ばれる手のひら位の大きな鉱石があった。
点火石とは、ガスが通るはずのない大空洞にとって重要な鉱石でありありふれた鉱石。
普段は極小の欠片かけらを何一〇粒にも集め料理や暖房に率いられる為、加工をしていない元石で
ジムさん達が落として行った⋯⋯?
「ヒバリィィーー!!!」
バックパックを置き
「⋯⋯ジムさん?」
その他にも自分の名前を叫ぶ声が二つほど聞こえてくる。
班の皆はやはり
点火石を、茶色い手袋をはめた手で取るとバックパックに
「
無意識に声を張り上げ、表情が
リュックを
「バウッ!!」
ナツも低い声で鳴くと、ヒバリの後を追う。
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