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お題:こんな『教室ごと異世界転移』はいやだ。


クラスメイトから空気扱いされている俺。


授業中寝てしまった俺は周りの喧噪に目を覚ます。


おっと次は体育か。俺の教室は女子の更衣室になるからな。


すでに教室の中の男子は俺一人。女子も俺にかまわず着替え始めている。


慌てる必要はない。こんなことは日常茶飯事だ。


体操服が入った鞄を手に取り立ち上がろうとすると、不意に視界が闇に包まれる!


停電!? 馬鹿な! 今は昼前だぞ!!


闇が晴れると漆黒のローブを纏い、オオカミだかトラだか区別がつかない異界異形の顔をした、身長三メートル近い”モノ”が教壇に立っていた。


これが噂の『教室ごと異世界転移』か!?


『!』


声のでない女子達。金縛りか。


『これはこれは、いいにえがたくさん手に入ったわ』


ヤツのローブがはためいた瞬間! ヤツと女子全員が忽然と消えた。


異界へ飛ばされた教室で、一人たたずむ俺。


どうやらヤツから見ても俺は空気扱いみたいだ。


気にしないさ。これぐらい、俺には日常茶飯事だからさ。


窓から外を見るが、おどろおどろしい空の色に、木か生物かわからないものが灰色の地を這っている。


まぁいいさ、ちょっと早いがとりあえず弁当でも食うか……。













































































『ちょっとアンタ! のんきにお弁当なぞ食べている暇があるの!? 仮にもあの女子達はアンタのクラスメイトなのでしょう?』


机の中の三十センチアクリル定規、《光子波動剣こうしはどうけん》が、昼食の邪魔をする。


「『腹が減っては戦はできぬ』は”異世界”の言葉だ。それに倣っているだけさ。ったくクソ魔王め。いまわの際に俺を”異世界へ転移”させやがって!」


『わたくしの【不可視ステルス】のスキルのおかげで奴らに気づかれることなく、贄ごとマスターを”元の世界へ”転移することが出来たのですよ。オホホホホ』


身につけた黒い学ラン、《百花破魔甲冑びゃっかはまかっちゅう》が、さも得意げに鼻を、いや、襟を高くする。


「魔王が復活のために若い娘の贄を探しているって聞いて、この高校に当たりをつけたらドンぴしゃだったな。やれやれ、女子校じゃなくて良かったぜ」


『すべてはあたしの情報の賜。今夜はめいっぱいかわいがってくださいね』


机の横にかけてある、この学校で俺しか被っていない黒の学生帽、《文殊英知兜もんじゅえいちかぶと》が、フックから外れんばかりに体を震わせている。


飯を食い終わった俺は、学生帽を被りアクリル定規を手に取った。


「んじゃ、いくか!」


『『『イエス! マイマスター!!』』』


そして、覚悟をつけるための『妄想脳内会話』も終わった。


神も仏もいないこの世界だが、俺に目の保養を与えてくれた女神達のために、やれるだけやってみるか!!

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