第10話 II

 日差しが気持ち良い。存在が気持ち悪い。


「人を殺さない理由なんて刑務所で髪を短くする気分じゃないからってだけだよ」


 案外そんな程度のもの。



 力が入らないのは薬のせいなのか、それとも栄養の不足か、脳みそが疲れきっているからなのか。



 多くのことはただ静かに過ぎていく。少し前に近所を散歩していたとき、この道を曲がるとずっと殺したいと思っていた人間の家に辿り着くことに気が付いた。



 よく両親は私を家に連れ戻そうと思ったなあ、と感心する。そのうえ、中途半端な自由を許していること、それが致命的なものになるかもしれないということに気が付き、私はこっそりと歓喜した。


 家には金属バッドも、色々なタイプの包丁もある。射撃場の場所も知っている。車だってあるわけで、よく平気な顔をしてぼんやりとテレビなんて見ていられるなあ、と思う。



 もし、私が髪の毛を伸ばしたり、ろくに外出もしないのに毎日毎日馬鹿丁寧に真っ赤な口紅を塗っていることの、その本当の意味を彼らが理解しているのであれば、たいしたものだと思うのだけれど。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る