REPRISE

Cécile

第1話 混沌

 彼女の枕元には蝶の標本が置いてある。「胡蝶の夢とか、ヴァニタスって感じで、良いでしょう?」と彼女は言う。腹の部分がないのは腐るからだそうだ。サイドテーブルの引き出しを開けるとガス代の請求書やなんかと一緒にいくつかの鉱物と化石が出てくる。標本や化石を見ながら彼女はそれらは死んでいると当たり前のことをわざわざ言う。彼女は無機物が羨ましいと思っている。


 彼女は混沌を探している。シベリアや極地に、あるいは夢の中や貴方の瞳の中に。愛しているのだろうか、それとも恐れているのだろうか、と彼女は自問する。


 彼女はいつかベタを飼って、夢見る魚と名付けようと思っている。魚には意思があるのだろうか。世界には意思があるのだろうか。ベタの良いところはその美しさじゃなくて、美しい上に闘魚であると言う点にあると思う。微睡みと名付けられた寝室のモーブカラーのシーツに潜り込み、今夜も彼女は苦戦しながら眠りにつくのだ。

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