第114話『巡る業』1
いやあ……いい加減昴先輩をどうこう言えなくなってきたね。
「…………」
カルボナーラをあぐりと食べる僕。
瀬野二の入学式および始業式があってから二週間。
そろそろ上級生諸氏も自身のクラスにも慣れてくる頃合いだろう。
新入生は……どうだかな。
学校そのものに慣れるか慣れないか。
あるいは受け入れられないか。
まぁ知人でもなければ知ったこっちゃない。
「…………」
カルボナーラをあぐりと食べる僕。
さて、この二週間で誰もの耳に入る情報はあらかた広まったと言っていい。
当人の都合なぞお構いなしに、である。
「すごく綺麗な先輩がいるって」
この新入生の噂は概ね華黒の事を指す。
多分。
他にも候補はいるかもしれないけど……それについては考えないことにする。
楽しい想像じゃないしね。
とまれ新入生が華黒を先輩と崇めるのも仕方ないかもしれない。
華黒を見る。
華黒は日本人形のように整った容姿をしている。
黒髪ロングに白い肌。
ただし僕の恋人であることも広まっているので瀬野二の生徒たちにとっては既に九回裏十対零諦めムード満開の様相を呈している。
稀に告白してくる勇者もいるけど、華黒にとってはかかずらう必要のない条件だ。
南無。
「…………」
カルボナーラをあぐりと食べる僕。
対して上級生諸氏の間に広まって広まって広まりきっている噂もある。
「めっちゃ可愛い新入生がいるってよ」
これが誰を指すかと言えば例外はあれど概ねルシールである。
ルシールを見る。
ハーフであり母親の血を色濃く受け継ぐ金髪碧眼。
神秘的な容姿もさることながら、守ってあげたくなる愛玩動物のような態度もプラス点となっているのだろう。
しかもこっちは華黒と違ってツバをつけられていない。
ならつけようと言いだす輩は今のところいないけどそれも時間の問題だろう。
「…………」
カルボナーラをあぐりと食べる僕。
最後に黛を見る。
ボーイッシュかつ快活。
可愛いとは少し違うけど美少女の部類に十分入る。
何に対してもおずおずとするルシールを守りフォローしてあげている親友。
ルシールと黛のコンビはそれはそれは鮮やかだ。
見た目も映えることながら仲良し度も満点。
人当たりの良さを加味するならば決して華黒やルシールに劣ることのない人気美少女になるだろう。
「…………」
カルボナーラをあぐりと食べる僕。
で、何が言いたいかというと、そんな華黒とルシールと黛の美少女三人組……かしまし娘と一緒に昼食をとっている最中なのだった。
当然昼休み。
場所は学食。
「なーんでこんなことになったかな?」
嘆息せざるをえない。
「いやぁお姉さんの気持ちもわからんじゃないですが黛さんやルシールは単独行動をとるとハイエナにエンカウントしてしまうので」
あっはっはと快活に笑って黛。
「それはあなたが腐肉だと言っているのですか?」
焼き鮭定食を食べながら皮肉る華黒。
「や、これは失礼をば。ごめんねルシール」
「………………別に気にしてない」
ルシールは真摯に優しい言葉を口にした。
「どうも。ま、ともあれ華黒お姉様もそうでしょうが黛さんやルシールも世の男どもに狙われている身ですけん牽制する必要があるわけです」
「それが僕ってわけ?」
パスタをあぐり。
「はいな」
躊躇なく言い切られた。
「お姉さんと一緒ならナンパされることも……多分ありませんし」
代わりに僕に嫉妬の視線が突き刺さっているんだけどね……。
学食の一つのテーブルに僕と華黒とルシールと黛。
ちょうど四人でいっぱいだ。
そこだけ異界。
あるいは結界。
他者にとっては手の出しづらい空間だろう。
まぁ今更なんだけどさ。
「というわけで黛さんやルシールに邪な想いを抱えている輩に対する牽制としてお姉さんには協力してもらいたいのですが如何に?」
「……別にそれくらいならいいけど」
パスタをあぐり。
「お姉様としては?」
「構いませんよ。因果が巡るというだけのことでしょう」
「?」
黛は疑問に首をひねったけど華黒は説明する気はないらしかった。
「それで?」
これは華黒。
「第一に兄さんに何をしてほしいんですか?」
「実は今日ルシールが恋文をもらいまして。今日の放課後……屋内プールの裏手で恋愛事情が一つ」
「それを牽制しろ、と?」
「ついてくるだけでいいですよお姉さん。お姉様も一緒してくれれば責任が分散されて良い感じなのですが……」
「そのつもりです。まぁ昨年度の兄さんの行ないをルシールに対して行使すると思えば腹も立ちませんし」
華黒……君がそれを言うか。
パスタをあぐり。
「………………いいの? ……お兄ちゃん」
「構わないよ。ルシールとしても困ってるんでしょ?」
「………………うん」
抱きしめたいなぁ。
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