第90話『白と黒の誕生日』3
次の日。
華黒と二人暮らしを始めて二日目。
今日は四月二日。
「う……うん……」
僕はあまりの眠気に呻りながら目を開けた。
最初に見えたのは見慣れない天井。
「そうか……」
と僕は呟いた。
僕は今日から百墨家ではなくアパートの借り暮らしなんだ。
しかも華黒と二人で。
「ま、しょうがないかぁ……」
本当はしょうがなくなんてないのだけど、眠い頭であれやこれや悩んでもしょうがない。
僕は起き上がろうかと思って全身にセンサーを走らせる。
すると右腕に違和感を覚えた。
右腕が重い。
右腕に何かが乗っている。
僕は首だけ動かして右腕を見る。
そこには僕の右腕を腕枕にしてすやすやと眠る美少女がいた。
黒く長い髪はブラックシルクのようで。
唇は桜の花弁のようで。
肌は白磁器のようで。
完成された美少女がそこにはいた。
ていうか華黒だった。
「…………」
たしか昨日は僕と華黒はそれぞれの私室で寝たはずだ。
それがなんでこんなことに?
わかってる。
ああ、わかってるさ。
どうせ僕が眠った頃合いを見計らって僕の部屋に侵入してきたのだろう。
「さて……どうしちゃろうか……」
唸る僕。
と、
「……ん……」
と寝言と言うにはあまりに簡潔な呻きをあげる華黒。
可愛らしい寝顔は観賞に値する。
すると、
「……ん……兄さん……」
と幸せそうな寝言を呟く華黒だった。
それで僕の行動は決まった。
左手の中指を親指に引っ掛けて力を練る。
そして解放。
デコピン一発。
「うぁ痛っ!」
と悲鳴をあげて華黒は目を見開いた。
「何をするんですか兄さん!」
「寝言だとしてもあんな都合のいい場面で僕の名前を呼ぶなんて奇跡的なことが起こるなんてわけないでしょ」
最初から疑っていたけどやっぱり狸寝入りか。
そりゃそうだ。
華黒は僕より早く起きて僕の世話をし、僕の世話をするために僕より早く寝ることのない人間だ。
これだけ聞くとメイドさんみたいだね。
とまれ、
「僕のベッドに潜り込んだことに対する言い訳は?」
「兄さんの香りに惹かれてフラフラと」
君は蝶々か。
「今後は禁止ね」
「そんな殺生な!」
なんでそんなに驚くのかが僕にはわからないんだけどね……。
「さて、起きるよ華黒……」
「はいな。兄さん……」
そして僕らは引っ越して二日目を始めるのだった。
布団をはがし立ち上がろうとして僕は、
「…………!」
ぶったまげた。
布団をはがしたことで見えた華黒の姿は……。
「なんで乳バンドとスキャンティだけなのさ!」
「乳バンドって……いつの時代の人間ですか兄さんは……」
華黒は黒いブラにショーツのみの姿であった。
僕は驚きベッドから転げ落ちる。
「いいから早く服を着て!」
「どうですか兄さん? そそります?」
「早く服着ないと嫌いになるよ!?」
「それは困ります……!」
「なら早く着てくる!」
「はーいはい。なんですかねぇ。思春期同然の私達にしてみればおいしいイベントだと思ったのですけど……」
「なんで妹の下着姿を見て興奮しなきゃならないのさ……」
「でも狼狽えているじゃないですか」
「そりゃ華黒くらいの美少女の下着姿なんてご褒美みたいなものだけど……」
「本当ですか!?」
目をキラキラさせないの!
「でも駄目! とりあえず早く服着てくる! エイプリルフールじゃないよ! 本当に嫌いになるよ!」
「わかりましたよ~」
不満げにそう言って華黒は下着姿のまま自分の部屋に消えていった。
中略。
「はい。兄さん。トーストと目玉焼き、サラダにコーヒーです」
「ん。ありがと」
華黒はクマさんパジャマを着て朝食を準備してくれた。
僕は華黒と犠牲に感謝して食事を開始した。
「そう言えば……」
とこれは華黒。
「何さ?」
「今日は兄さんの誕生日ですね」
「ああ……そう言えばそうだね。またいつものようにケーキ焼いてくれるの?」
「毎年そればかりでは芸がありません。既にこの辺りの地理は把握しています。評判のケーキ屋さんがあるんでそこに行きませんか?」
「ふぅん。まぁいいけど」
僕は眠気覚ましにコーヒーを飲みながらそう言った。
そう言えば今日は僕の誕生日だったか。
僕も十六か。
なんだかなぁ……。
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