第50話――外伝『残念無念を運ぶサンタクロースの肖像』
このエピソードはパラレルワールドでのことです。
本編とは完全に繋がっていません。
読者様の幸福を祈って「メリークリスマス」と言わせていただきます。
※――――※
冬のある日のこと。
冬期休暇。
僕と華黒は暖房の効いたアパートで引き籠りこもごも。
特別何をするでもないけど、それはこっちの理屈。
世界の捉え方は人それぞれで、僕にとって地球は平和でも、別銀河の生命から見れば光速で宇宙を駆けている星にも見える。
相対性理論の基本だ。
キュビスムが当初受け入れられなかったように、ヒップホップが洗練され文化になったように。
見えている人間それぞれが自己を中心に世界を観測するのだ。
「何言ってんだコイツ?」
かな?
現実逃避だよ。
今日はある人の誕生日前日。
犬ははしゃぎ、猫は丸くなる。
カレンダー的に考えて祝日に相違ない。
日の丸を掲げるかはまた別としても。
で、
「冬のある日」
と僕は言ったけど、これは僕の主観であって他人の主観ではない。
「いいんだけどさ」
嘆息。
「に・い・さ・ん?」
「何かな?」
「メリークリスマスです!」
「だぁねぇ」
疲労というか悲嘆というか。
濡れ羽色。
漆黒の髪と瞳。
ブラックシルクより気品のあるロングヘアー。
ブラックパールより光を反射する双眸。
白磁器に例えられる透き通った肌。
時価で兆の付く彫刻性の御尊顔。
うちの妹。
ついでに今は恋人か。
百墨華黒と呼ばれる美少女。
今日はクリスマスイブだった。
で、兄さん大好き人間としては兄と過ごしたい。
恋人大好き人間としては恋人と過ごしたい。
気持ちは分かるけど、華黒の場合は常識が追従しないのだ。
「抱いてください!」
「却下」
無無明。
「真白くん?」
「なんでござんしょ?」
「ニャンニャンしよう」
「華黒でどうぞ」
「マジで!?」
愉悦に目が閃く生徒会長さん。
「兄さん!」
襲いかかろうとしている生徒会長を押し留めながらこっちを責めやるように華黒は見た。
「今華黒が先輩に抱いている気持ちこそ僕が華黒に抱いている気持ち」
そ~ゆ~ことだった。
「なぁ」
比較的理性を宿した声がかかる。
ツンツンと茶髪の跳ねる少年だ。
僕のほぼ唯一の男友達。
酒奉寺統夜だ。
その姉である酒奉寺昴先輩が華黒に襲いかかっているという構図。
「新手の拷問か?」
まぁそう映るよね。
暖房が効いているので比較的薄着な僕と統夜だけど、華黒と先輩は突き抜けている。
所謂サンタクロース。
コスプレだ。
「寒くないのかなぁ」
とはツッコミのような現状確認のような。
胸部をぐるりと回る開けっぴろげな上着と、太ももの眩しいミニスカ。
頭にはオマケ程度にサンタの帽子。
「グラビアか」
と統夜が嘆いてもしょうがない。
華黒にしろ昴先輩にしろ、
「基礎能力が人外」
と評せる才能の塊だ。
出るとこが出て引っ込むところが引っ込んでいる。
「写真撮ってアップしろって意味?」
「止めて」
統夜の皮肉も分からないじゃないけど。
さすがにネットリテラシー的には過敏や慎重にもなる。
「ええじゃないのええじゃないの」
先輩は完全に暴走していた。
華黒を追い詰めて筋力的に拮抗している。
ちなみに前にも述べた気がするけど僕は勉強とかスポーツもそうだけど殴り合いの喧嘩でも華黒に勝てない。
その華黒と拮抗する先輩もまた何と論ずるべきか。
「真白はソレで良いのか?」
「良くないけどどうしろと?」
「だよなぁ」
理解のある友人で助かる。
「とりあえず一枚」
組み合っているサンタコス二人をパシャリと取る。
艶やかな背筋から健康的なお尻へのラインが目に痛い一枚だ。
「あとで僕にも頂戴」
「まいどあり」
金を取るの!?
「ところで酒奉寺家でクリスマスは何かしないの?」
酒奉寺家はこの辺り一帯を治める大地主だ。
「するけど姉貴が『聖夜に華黒くんを拝まないのは世界の損失だ』って」
「ハーレムの女の子たちは?」
「既にデート済みだ」
さすがに姉のハーレムをプロデュースしているだけあって認識は能率だ。
良い事なのかは慮れないけど。
「明日も予定ビッシリだしな」
「本家はおまけ……か」
「基本的に自由人だから」
――どちらかと云えば形而上でな。
遠い目をして呟く統夜でした。
「ま、華黒ちゃんのミニスカサンタがプレゼントって事で」
「その解釈であってるよ」
二人の超美少女ミニスカサンタのコスプレがこの場の良心だろう。
気苦労もセットで付いてくるけど。
本当に今日ほど夜が恐い日もない。
華黒も華黒で二人きりだと野獣に変わる。
今日はルナティックがその情念を加速させる。
オンマユラキランデイソワカ。
「脱がそうとしないでください!」
さすがに衣服の都合上ブラを付けられないので、服の下は生乳。
尤も、僕曰く、
「お前が言うな」
に相当する。
「ウンエーという名の神様に消されますよ!」
メタ発言だけど、この場合自分の首も絞めていないかい?
夜にアハンがあれば破滅する。
「いいのか?」
統夜が一番冷静なようだ。
「さてね」
僕はココアを飲んだ。
夕餉の時間だけど、クリスマスの食卓準備と都合があるため夜御飯は日が暮れて星から出てからと為っている。
酒奉寺家の二人が居るのもそのため。
「ぶっちゃけニャンニャンするのか?」
「しません」
「性夜とか」
「そういう統夜は」
「さてな」
さすがに設計図その物は昴先輩と同一なので、これで良くモテる。
「六連の都合もあるし」
「むつら?」
「何でも無い」
サクッと話題切り替え。
「助けてください兄さん」
「夜に誘惑しないって誓ってくれるなら」
「えー」
こっちのセリフだ。
「可愛くはないですか?」
「可愛いよ」
それは間違いない。
世界で一番可憐なサンタだ。
本物すら超越している。
「とっておきのクリスマスプレゼントがあるんですけど……」
「要らない」
「にーいーさーんー!」
ガクンガクンと揺さぶられた。
「昴先輩に奉じれば?」
「そこまで悪趣味じゃありません!」
それだけでだいたい悟れるのも悲しいけど。
「実は真白くん用にサンタコスを持ってきているのだけど……」
「…………」
あたまのずつうがいたい。
「着てくれ給え!」
「嫌です!」
「プレゼントだと思って!」
何故統夜は姉としてよく許容できるのか?
残念な天使の命題。
「兄さんからのホワイトプレゼント!」
こっちも残念な天使だった。
「処女で孕んでみさらせ」
それこそ聖夜の奇蹟に値するだろう。
「統夜……」
と僕。
「姉貴……」
と統夜。
「華黒くん!」
と先輩。
「兄さん!」
と華黒。
「「「「メリークリスマス!」」」」
何だこのパワーバランス?
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