証明する血
見るからに重たい扉を女性検査官が開けると、可愛らしい容姿の二人が部屋に入ってくる。
もっと表情を作れば更に可愛らしく見えるのは間違いないのに、驚くほどの無表情。
「二度目の確認となるが、テレサ・ティティアードだね」
「はい」
無表情な少女は器用に口だけを動かして答えた。
問うた女医に、精霊術士の少女が訊ねる。
「その名前、自称ですか?」
「いや。レルヴァの身分証明を持っていた。欠けてはいるが本物だろう」
神国レルヴァの身分証明は他国と大きく異なるガラス製だ。しかしそれほど特殊な素材や精密な細工というわけではなく、一見すると二枚のガラス板で構成されたシンプルなものである。
とは言えガラスの輸出で成り立つ国。しっかり特殊性を持たせている。
まず用途を満たすために強度が高められている点。そして二枚のガラス板の間に入っている『血液』の、二点だ。
生後すぐにへその緒を切り、平行して依頼を受けたガラス細工職人が平板ガラスに生年月日、性別を彫り込む。出生地と両親の名前――時に母親の名のみ――は前もって加工済みである。
加えてこのガラス板には魔女によって『挟み込んだ物質を変化させない』魔法がかけられている。尤も、この点は対外的に伏せられ、神国の不思議なガラス技術としか謳っていないが。
次いで赤子の指を切って
生後間もない頃は赤子本人の血液に母胎から受け取った抗体が混じり、この血液は母子の関係を証明するものとなる。
新鮮な血液は平滑なガラス面に弾かれて、掘られた空洞の中を半永久に液体として泳ぎ続ける。その様は絶世に美しく宝石に等しい魅力があり、他国ではその血を飲めば寿命が延びるという伝説さえ囁かれるようになった。
つまり、高い価値がある。
何らかの理由で角が少し欠けてしまったとしても、十分な売り物になる。
捕虜であった彼女がそれでもガラス製の身分証明を持ち続けたのは、彼女が幼く可愛らしいからだ。
――売り物として考えるなら、別々に扱うよりもセットのほうが高価になる……か。嫌な話よね、本当。
精霊術を扱う少女は、幼い彼女――テレサ・ティティアード――の置かれた環境を想像してまた重い息を漏らした。
――本当に、野蛮な人間は嫌いだ。
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