処女懐胎 なりそこない魔女の悪あがき
本山葵
プロローグ
全方位を海に囲まれた海洋交易国家、レルヴァ。
豊かな海洋資源と風変わりな土壌を持ち、華やかなガラス細工は伝統工芸品として高値で取引される。
隣国との陸地境界線が存在しない島にあって独自の海洋学を生み出し、特殊な土壌で生育する食用植物はレルヴァの民でなければ芽吹かせることすらできない。
動植物の生態系が周辺国と異なるとも言われ、例えば大量のガラス製品を生み出せば、原材料の樹木を大量に消費し森林の死滅に繋がる筈なのだが、レルヴァの限られた陸地にある森林は豊かなまま朽ちることを知らない。
レルヴァの土壌でしか育たない聖なる木がある――という噂だ。
それ故にレルヴァは『神国』と呼ばれ、神聖視される。
あらゆる国と不可侵条約を結んだが故、本来ならば国家の防衛――場合によっては他国侵攻――に当てられる戦力は、必要最低限となった。
代わりに国内の治安維持と獣害対策に人員を割くことで、内政を強化する。
神国を侵す国などない――。
そう、思われていた。
しかし十年ほど前、西海を挟んだ対岸にある新興国アユーダが、不可侵条約を犯してレルヴァの港町を強襲。支配下に置いた。
神国への侵略行為に、新興国を除く全ての国家が、新興国へ非難を浴びせる。
だが内心は違っていた。
レルヴァの海洋資源、特殊な土壌、それを匠に操る民の技術――。
どの国であっても喉を枯らして神に叫び乞いてまで手に入れたいものだったが、願いが叶えられた国は存在しない。
――彼の島には、魔物が宿っている。
歴史を紐解けば、レルヴァは幾度も戦を挑まれている。
しかし一度たりも負けたことがない。
武力の概念を根底から覆してしまう奇跡の如き天変地異が、海を荒し、上陸を阻み、命からがら陸に上がればレルヴァの地を守る大量の獣が行く手を阻む。それでも更に突き進むと、島が飲み込んでしまったかのように、全ての消息が絶えてしまう。
その全ては、レルヴァの民が
理解不能。
異能。
武力を殆ど持たない国を相手に、武力自慢の国が敗れ去る。これを体よく表現するために『神国』という言葉が使われ、不可侵となったのだ。
――新興国も、必ず返り討ちにあう。
歴史と恐れを知らない新興国は徐々に支配地域を広げていくが、一方、武力を持たない一つの町を陥落することが叶わず、送り込んだ小隊が全て消息不明となる事態にも遭遇していた。
――新興国は、神国の所以へ触れ始めていた。
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