波打ち際


ぼくが作ったのはささ舟だったんだ。

波を撫でるそよ風でさえ舳先へさきのさす道を変えてしまうし、小魚の暗い影にさえ怯えるようになる。


木製のボートを曳いた君のあとを追いたいんだ。転覆したあぶくのなかで目にする、ぼくの藻のように揺れる髪が海の底での呼吸を望んでいるようにもみえる。それからしばらくは波に委ねてくだけてみたりもした。


心地よい場所から浮き上がるのはとても離れがたいけど、長居すれば溺れるっていつかのドラマのセリフであったんだっけな。

水中で乱反射する光に何もかも気づかされて、涙と海が溶けあう頃に、そのまま眠りについてしまうかもしれない。波に揺られた赤子になって、浜辺にあがる頃にはもう人間だ。

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