ビスクドールの涙

これは、二十年前に

起きたある

一家の悲しい

悲劇の物語でごさいます。


私はこの家の

執事をしておりました。


優しい旦那様と

綺麗で器量の良い奥様

そして、お二人が

大層可愛がって

おられたお嬢様の

三人家族で

それはそれは

仲の良い一家でございました。


しかし、二十年前

お嬢様が

亡くなられてからこの家は

変わってしまったのです。


一体のビスクドールによって。


そのお話を今からして

差し上げましょう……



ああ、長くなりますので

紅茶でもどうぞ。


★━━━━━━━━━━━━━━★


当時十歳だった

お嬢様は病気がちで

普通の子供の様に

外に出られず出られたとしても

敷地内だけでございました。


遊び相手は旦那様が買って来る

人形の数々が主だったのです。


お嬢様が亡くなる

二週間前に旦那様が

一体のビスクドールを

プレゼントなさったのです。


その人形は

髪型と目の色が

お嬢様そっくりでお気に入りの

人形の一つとなったのです。


二週間後、ご自分が

亡くなるとは知らずに……


そして、お嬢様が

お亡くなりに葬儀も終えた

三日後に家の中で不思議な事態が

起こり始めたのです。


家具の位置が違っていたり

啜り泣く様な声がしたり

誰も居ないはずのお嬢様の

部屋から物音がしたりと……

音がする度に

旦那様がお部屋を

確認されても何も

変わっていないのです。


お嬢様が亡くなられて

一年が経った頃旦那様が悲しみに

耐え切れず、お部屋にあった物を

一体のビスクドールだけを

残して、全て処分されたのです。


そのビスクドールこそが

全ての根元と知らずに。


お嬢様が亡くなられて

更に二年が経った

ある昼下がり、例のお嬢様の

部屋から声が聞こえて来たと

旦那様が血相を

変えて私の所に来られたのです。


★━━━━━━━━━━━━━━★


その場に居た

奥様も私もそんなはずはないと

否定したのですが、旦那様は絶対に

お嬢様の部屋から声がしたと

おっしゃるので三人で

行くことになりました。


鍵は掛けていないので

お部屋のドアを開けました。


しかし、そこには

あのビスクドールが

お嬢様のベッドに

鎮座して居るだけで

静寂に包まれ声なと聴こえません。


奥様にも何も聴こえでおらず

旦那様に気のせいだとおっしゃいました。


★━━━━━━━━━━━━━━★


旦那様も奥様も

出られ、私も出ようとした

その矢先、啜り泣く様な

声が聴こえたのです……


しかし、振り返っても

先程と変わらず

やはり、例のビスクドールが

鎮座して居るだけです。


それから暫くは旦那様も

お一人であのお部屋には

行かれませんでした。


そして、一騒動あった

あの日から更に二週間後、私は

とうとう、

見てしまったのです……

あのビスクドールが

涙を流しているところを。


★━━━━━━━━━━━━━━★

一瞬、目が合い、

腕を挙げ口元に手をやり、

人差し指を立ててシーという

仕草をしたのです。


つまり、

旦那様や奥様には秘密と

いうことなのでしょう。


私はこのことを

お二人には黙っていることにしました。



まるで、亡くなられたお嬢様と

約束した、そんな気がしたのです。


きっと、

彼女も淋しかったのだと思います。


私のお話は

これで終りでございます。


またの機会が

ありましたらその時は

お付き合い下さいませ。


紅茶をご用意して

お待ちしております。

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