第76話 ベルガモットと見知らぬ少女たち
「アハハハハハ!やめ!やめてって!」
土の上で笑いながらもがく女の子。
「ふっふっふ…。
その女の子の上に
「…」
僕は
どうやら、跨っている少女は賊などではないようだが…。
…ちょっと、えっちぃ…。
じゃなかった!
跨られている女の子は嫌がっている!
助けなければ!
「おい!お前!弱い者いじめはやめろ!」
茂みから飛び出した僕は跨っていた少女を睨み、怒鳴りつける。
跨っていた少女は驚いたようにこちらを向き、その動きを止めた。
くすぐられていた女の子は息絶え絶えである。
その汗ばんだ肌、乱れた服の間からは白い鎖骨が見えていて…。
ゴクリ…。
「ちょっと!私のリリーをエッチな目で見ないで!」
と言うより、その子をそんな状態にしたのはあんただよね?!
僕が非難めかした視線を少女に送る。
彼女は何を勘違いしたのか、リリーと言う女の子の上に覆いかぶさった。
如何やら、僕の視線から彼女を守ったらしい。
「グフゥ!」
しかし、そんな彼女は腰をへの字に曲げると宙を舞った。
その下からは片膝を持ち上げたリリーが起き上がってくる。
如何やらリリーがもう片方の少女の腹をけり上げたらしい。
その表情は辺りが暗いせいか黒く映った。
「初めまして、リリーです」
リリーと言う少女は何事もなかったかのように、乱れた服を直しながら、こちらに向き返る。
先程までの黒さを感じされない、花のような笑顔だった。
…さっきの表情は、やはり見間違いだったのかもしれない。
「ど、どうも、俺はベルガモット。…ベルって呼んでくれ」
彼女の美しい笑みを直視できず、僕は顔を
目を逸らした先では、蹴り飛ばされた少女が
「アレはコランです。私と一緒に旅をしています」
僕の視線に気が付いたのか、リリーが彼女を紹介してくれる。
年上の彼女をアレ。呼ばわりする所に
それにしても旅?この歳で?
山賊育ちの僕には分からないが、如何やら村人も大変らしい。
「今は新しく住める場所を探していまして…。どこか心当たりはありませんか?」
コランと言う少女から、僕の方に視線を戻したリリー。
彼女はその小さな顔を傾けながら聞いてきた。
…可愛い。
それでいて、落ち着いた雰囲気と、夜風に
「あぁ…。そうですよね…。この髪じゃ…。無理ですよね」
僕の視線が黒髪に移った事を気にしてか、彼女が
月に照らされる
綺麗だ。僕は唯々、そう思った。
黒は邪悪な色。そんな事は僕でも知っている。
でも、そんな雰囲気、彼女からは一切感じ取れなかった。
あぁ、だから旅をしているのか。
彼女の髪のせいで、どこか一か所に留まる事が難しいんだ。
それに黒髪は貴族に高く売れる。
人攫いや賊には格好の獲物だろう。
このまま彼女達を見捨てれば、どうなってしまうか分からない。
…そんなの、僕は嫌だ。
「家に来る?」
親方達には後で説明すれば良いだろう。
…まぁ、怒られることは避けられないけどね…。
「いいの?!」
リリーが目を輝かせ、前のめりで
その顔は子どもっぽさが全面に引き出され、とても可愛らしかった。
「う、うん…」
そう答えながらも、僕はドキドキして、後退ってしまう。
顔に至っては明後日の方向を向き、頬が熱くなるのを感じる。
この子を守りたいと思った。
大人っぽい表情も綺麗だけど、彼女にはこの顔の方がよく似合う。
そうだ!この子達を見捨てる事に比べれば、ジャグランの拳骨ぐらい何発でも!
「う、後ろ…」
喜びに満ちていた彼女の顔が、一転。
青白い表情をして、僕の後ろを指さした。
「よう、坊ちゃん」
聞き覚えのある声と共に、大きな掌が僕の肩の上に乗せられた。
僕は冷や汗をかきながらゆっくりと振り返る。
「あ、あはははは…。今日も良い天気ですね。お頭…」
満面の笑みを浮かべるお頭を前に、僕は頭が真っ白になった。
今自分が何を口走ったのかすら記憶にない。
「この、阿保ガキが!」
付け加えて言うならば、この後の記憶もない。
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