Sheh.9 川

 ぼくらは今日も、流れていく

 細かい砂利を洗うように

 山の奥の奥から

 顔を出し

 太陽のまぶしさに

 笑顔がはじける


 ぼくらは今日も、流れていく

 花の便りを運びながら

 小風にゆれる小枝から

 まっ青なかわせみがのぞき込み

 たぬきたちが

 月の夜をはね回る


 ぼくらは今日も、流れていく

 岩を砕いて飛び跳ねて

 大岩、小岩なんのその

 ぜんぶ砕いて

 流しきる


 ぼくらは今日も、流れていく

 あくびをしながら穏やかに

 岩床にざりがにが眠り

 いわなが虫を見つけて駆けつける

 それを後ろから追う

 人の足――


 ぼくらは今日も、流れていく

 ゆっくりと、堂々と

 道行く人に

 きらりと挨拶し

 笑顔を返される瞬間が

 大好きだ


 ぼくらは今日も、流れていく

 青々とした大地の狭間を

 おっとおばあちゃん、危ないよ

 そんなに沢山、抱えなくても……

 あ~あ、せっかくとれた野菜が

 砂まみれじゃないか

 ――いいよ、こっちに来て洗いなさい


 ぼくらは今日も、流れていく

 悲しい目をした人たちを見つめて

 橋の欄干にもたれて

 ため息をつく人

 タバコの煙が力ない……

 うん、そのタバコ、

 今日くらいは受け止めてあげよう


 ぼくらは今日も、流れていく

 静かな夜の街を

 なんてロマンチックなんだろう

 手を取り合って

 橋なんて渡っちゃって

 昨日まで君、

 同じところでたそがれてたのに


 ぼくらは今日も、流れていく

 広い、広い世界に向かって

 大きな船が行きかって

 色んな言葉が聞こえてくる

 ここは始まりと終わりの接着点

 つまり、円の上か下、右か左


 ――こうしてぼくらは海となり、

 雨となり、

 いつしかまたあの山奥に眠り

 そしてきっと、

 また、まぶしい陽に迎えられるだろう



 ぼくらは川

 ばくらは――世界だ

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